第一話 ハイティーン・ブギウギ ~青松純平の巻~

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「よかったな」

光司がポンと俺の肩に手を乗せた。

「ウブ平は嫌ってるみたいだけど、あんな良い人いないと思う。今だから言うけど、生徒会執行部にいたとき、どうして赤星先輩はウブ平に厳しくあたっていたと思う? ウブ平に期待してたんだよ。オレの後を継ぐのはウブ平しかいない。次期生徒会長はウブ平だ。オレを反面教師に素晴らしい生徒会長になってほしい、とよく言ってた」

反面教師というのは当たっている。

「ウブ平はチャラいところもあるけど、根は真面目で正義感は強いほうだろ。組織の一員としてしゃにむにがんばるほうだろ。それを赤星先輩は見抜いていたんだ」

俺は去りゆく赤星先輩の背中に、大きく一礼をした。その日のうちに、俺は通報した。直ちにヤンキーとヤンママは警察署に連行され、取り調べを受けた。依然として老女は意識不明でどのような処罰が下されるのかわからないが。

翌日、あの嫌味な若い警察官がわざわざ俺の家までやってきて、失礼な態度をとったことを謝罪した。俺は渋々と許すことに。警察官の話によれば、事故現場の偽装工作を指示したのはヤンママだった。赤星先輩の見立てどおりである。

あの日、ヤンママも再放送の刑事ドラマを見ていて、それにヒントを得たらしい。健太が事件の真相をすぐに明らかにしなかった、というより、できなかった理由もわかった。脅迫だった。

奇しくもヤンキーは健太が通う中学校のクラスメイトで、いじめっ子。「東京生まれの東京育ちが気に入らねえ」という理不尽な動機だけで、健太は転入早々に目をつけられたという。そして事故直後、母親に言われるがままにヤンキーはこう脅した。

「俺たちは天下無敵の十四歳未満。刑務所に入ることはない。安心しろ」

「身代わりになってくれたら二度といじめない」と。

夕方、俺が家族揃って買い物に出かけようと思い、身支度を整えていたところ、被害者が入院している病院から思いがけず電話を受けた。親切な看護師さんだった。通話を切り、ほっと胸を撫で下ろす。

「被害者のおばあちゃん、意識を回復したって。頭の打ちどころが悪かっただけだって」

千香子は安堵の表情を浮かべた。そばで聞いていた健太と若葉も嬉しそうに目を細めている。

「これでいじめっ子も健太にはますます頭が上がらないだろうよ」

高座椅子に座っている母君江が、勝ち誇ったような顔で言った。

「どういうことだよ。被害者のおばあちゃんの意識が戻ったのは別に健太のおかげじゃないだろう」

「そうじゃないよ。保険に入っておいたんだよ。いまどきは自転車も半強制的に保険に入らなくちゃいけないだろ。別に当たり前じゃないか。純平や健太の友達が乗ることがあるかもしれないだろ。その保険、自転車の所有者以外でも有効なんだって。被害者には見舞金も支払われるそうだよ」