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瞳子さんのアパートの作りは、玄関から入ったところにキッチンスペースがあって、奥に部屋が二つある。ぼくが案内されたのはフローリングの茶の間で、もう一つの部屋は寝室に違いないが、もちろん中に案内されることはない。

茶の間の中はこざっぱりしていて、派手な装飾もなく落ち着いていた。

真ん中にコタツがあり、周りに座椅子とクッション、南に掃き出し窓、角にテレビとテレビ台、対角に収納棚や飾り棚があり、いわば普通の生活空間で、風変わりな彼女に予期していた、とっぴなインテリアはなかった。

室内に流れる音はもっぱらテレビで、こちらが手も足も出ない洋楽だのジャズだのといった高度なBGMはない。

しかし飾り棚には妙な物たちがいた。四角いスペースがいくつもある白い棚に、一品一品コースターの敷物付きで、灰色の物体が飾ってある。何かまともでない物であることは一目で分かる。

これは何ものかと瞳子さんに訊ねたら、以前生コン会社に勤めていた時、あまった生コンをもらってさまざまなオブジェを作ったのだと教えられた。

円柱が先細りになっている物体、これはリポデの瓶に生コンを流し込み、固まったら金づちで瓶を叩き割り中から出てきたものだそうだ。ごはん茶碗を型にして作った灰色のオッパイもある。乳首代わりにパチンコ玉が乗っていた。

他にはアスパラの天ぷらのような物体もあった。これはボールペンにモルタルを塗り付けて作ったのだそうだ。イカの天ぷらみたいなのは、捨てないで取っておいた古い携帯電話。

なぜかストラップには塗り付けておらず、灰色のイカ天から、たくさんのキャラクターストラップ、ミッキーにピカチュー、なぜかマリモッコリが飛び出していた。

他にはモルタル漬けのキティまであった。個人の趣味にとやかくいう筋合いはないが、「くだらねえー」という感想が出る。

コタツに座り、出された紅茶を啜りながら、ぼくの知らない、過去の瞳子さんに関し探りを入れてみた。

「でもさ、どうして会社辞めちゃったの? 趣味と実益兼ねてたのに」

相向かいで、目を細めて紅茶を啜りつつ、彼女は真顔で答えた。

「生コンてさ、ほら、見てると飛び込みたくなるからね。会社にそういう生コンプールみたいなところがあってさ、そんなのあったら面白そうで飛び込みたくなるでしょ? でもわたしがオブジェになるわけいかないし。本気でやりたくなったから、会社辞めた」

「嘘でしょ?」

「バレた? ほんとは社長に言い寄られて、愛人になってくれってしつこいもんだから、嫌んなって辞めたのよ」

冗談めかして言っているが、こっちは本当なのに違いない。