神に選ばれた神人類(しんじんるい)による新しい世界の構築。ぼくは小説によってその神世紀創造のイチヨクをにないたい、などとも夢想した。もともと人見知りでおとなしい性格だったものが、友人の裏切りでなお目立たない人生を送るようになり、周りから見ればぼくは暗い奴だったろう。

でも本当の自分は、特別な使命を持った、使命感に燃える戦士なのだ、と思い込んでいた。禁欲的になり、ダラクであるエロ本もオナニーも我慢して、使命に身を捧げていた。こういう夢を誰かと語り合いたいと思った。でもこんなことを話せる奴なんて、そうそういない。

でも高二の修学旅行の時、ちょっと気が合う中島という友人ぽいやつに、夜ホテルのかたすみのホールで、ぼくが考えていることを思いきって彼に話してみた。すると中島はなにかぼくをヤバイやつであるかのように見て、「なんかオウムみて」と言った。ぼくは、「オウムとは違う!」と反論した。あんな犯罪集団とは全然違う。けれど、中島は去っていった。

ぼくはショックだった。自分の理想はオウムなんかじゃない。でも、それ以降、神世紀創造という夢に情熱を失ってしまった。孤独の穴埋めだったことが、無意識に分かってしまったからだと思う。ぼくはいつも一人で、それはぼくがフツウの人とは違うからで、なぜ違うからというとぼくには特別な使命があるからで、だから孤独なのは仕方ないことだと、思い込もうとしていた。

でもいつかぼくに特別な使命があることをみんなが気づいてくれて、ぼくの周りにショウサンとアコガレの眼差しで人々が集まってくる……。そう自分の特別さを信じて、信じることで、孤独の穴を埋めていたんだと、今は思う。内心ではさびしかったということか?

そして中島のオウム発言によって特別な使命を失ったぼくは、ソウシツ感におそわれ、どうすればいいのか分からなくなった。使命のないぼくはもはやただの人間で、友だちも彼女もいない凡人で、ムシケラだ。ぼっかりと開いてしまった、残された穴をどう埋めていいのか分からないのに、埋めなければならないとあせり、自分を追い立てた。

刺すように責めた。そして怖かった。使命から逃走したことを神から罰せられる気がして。これから罰として、ただでさえいいことがない人生に、もっとカコクな運命が待ちうけていたらどうしよう。ムナしさや恐怖から逃げるように、いっとき断っていたオナニーを再開し、日に何度もやり、でもやればやるほどムナしく自己嫌悪にオソわれるだけだった。…』

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