第一章 再起

仁の中国出張機会が増えるにつれて、取引先に対するシステム説明も順調に進んでいた。当初、コンピューターシステムを利用したデータ交換に関して、懐疑的に見ていた取引先も有効性の理解が進んでくると、対象範囲を拡大することにより合理的に作業効率が図れることを理解することができた。

その為、この機会に恒久的な業務改善を実施しようとする経営者がデータ交換範囲の拡大と機能拡張を要望し出した。社内営業部門からも取引先の囲い込みと原価削減策としての活用の可能性も見え隠れし、積極的な推進と機能拡張を実施してほしいとの要求が主流となり、システム部門の業務量が想定以上に増大していった。

体制の強化を中心に開発予算の見直し、拡大が図られたが、納期変更が議論されることはなく、プロジェクト管理作業は機能と要員だけの単純な変更・拡充では対応し切れず、個別調整に管理作業が、混乱した。全体調整と見直しが必要とされ、混沌とした管理状態となった。

ユーザー要求仕様の変更は、システム化範囲や工程管理、作業計画、要員計画の見直しが付きまとう。既にプロジェクトが動いている状態でのこのような変更の作業量とその検証作業は、プロジェクトマネージャーに想像を絶する業務量を強いる。

今までの社内稟議や納期と品質管理基準の整合性の確保は当然とし、大量に追加投入されたプロジェクトメンバーのスキルの見極めも必要となる。その頃、情報システム部門内では、お荷物プロジェクト的な扱いが浸透し出した。

プロジェクトマネージャーとしての仁は孤立することになる。部長をはじめ、営業部門も失敗時の責任の連鎖を嫌がり、露骨に無関係を装うようになっていた。部長は慌てて、現状の責任をプロジェクトマネージャーの仁に押し付ける為の役員への報告資料を作成していた。

《小詩(シャオシ)、元気で過ごしていますか。あなたのことが心配です。

上海に行ってきたよ。豫園商城は、小詩(シャオシ)が喜びそうな玩具やお土産が一杯あったよ。もう少し、動けるようになったら、二人で一緒に行こうね。姐姐(ジィェジィェ)が案内してあげるからね。