ちょうどその頃、北区で事件があった。妻が夫からDVを受け怖くなって逃げだした。そして妻は別居したが、夫は妻につきまとった。そのストーカー行為に困った妻が警察の生活安全課に相談した。警察は夫にストーカー防止法に基づき警告したが、警察に警告を受けたと夫は逆上し、次の日、妻を殺害してしまった。

警察は面目が立たない、躍起になっている時期でもあった。しかし、警察が介入しなければ、殺人事件にまでは至らなかったのかも、とかも思う。未だに、その手の殺人事件がなくならない。内容、いきさつも調べず、最後まで責任を取らない書類上の下手くそな警察の介入のせいで。

警察はストーリーで動く、今回の場合はこうだ。

享子はあのトシカツのタイムリーなラインが疑問だった。なぜ私の行動が、居場所がトシカツにわかったのか? 探られている? まさかストーカーされている? 疑心暗鬼の塊となった享子は、友人のツテをたどって弁護士に相談した。

すると弁護士は警察の生活安全課に相談することを勧めた。享子は言われるままに警察に行き、こう相談した。

「DVを受けた挙句、別居しています。でも今ストーカーされて困っています」

警察は、享子を守るためのストーリーを作る。シナリオ的にはこうだ。DV容疑でトシカツを聴取して、暴力を認めさせて言質を取る。そして享子に被害届を出させて逮捕する。事件予防、検挙率UPとなる絵を描いていたのだ。

ついにトシカツは犯罪者になってしまうのか? 

東野圭吾の『新参者』ではないが、人は嘘をつく。人は自分に都合の悪いことは言わない。享子もそうだ。

トシカツは「享子は浮気をしているのだよ」と言った。警察は、え?聞いてないよー?みたいな顔をした。トシカツの一発逆転の言葉である。そう、享子は自分が浮気していることを言わずに隠していた。

警察はただ単に、トシカツを酒乱のDV夫と決め打ちしてきたから、いきなりストーリーの方向をガクンと変えさせられた。しかも、トシカツは2日後には家庭裁判所の調停まで組んであることを言った。ちゃんと話し合いで解決したいという意思表示でもある。そうなると警察は手も足も出ない。もちろん逮捕もできない。

トシカツは犯罪者にされずに、そのまま連れてこられた覆面パトカーに送られてアパートに帰ったのである。

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