僕は許しを得て学校をサボタージュすることになった。家にいようかと思ったが、もやもやして仕方がないので僕は手櫛で簡単に髪を整えて鞄にスマホと鍵と財布を突っ込み、家を出た。

叔母はテレビを見ながら言ってらっしゃいと声をかけてくれた。僕は厚意に甘えながら私服で駅を目指すことにした。学校が始まるまで十分前。どう考えても今から学校に行って間に合うわけがない。けれど僕はなぜかいつもと同じように駅に向かって歩いていた。

どこに行くか全く決めていない。駅に着いてから決めても遅くはない。どうせ駅に行かなければどこへも行けないのだ。いつもの通学路なのに、いつもと違う時間だから様子が違う。

家を出る時はしんと静まっている道沿いの店は準備を始めたのか閉ざされたシャッターの向こうから何やら物音がする。車の交通量もいつもの時間帯より多い。駅に近づくと人はかなり少なかった。通勤通学の人々はとっくに出ているのだ。

寂れた駅のロータリーにはバスが一台停まっていた。いつも登校に使うバス停だ。遠くにそれを見ながら、どこに行こうか迷った。

角島に行くのもいいかもしれない。まだ海水浴のシーズンには早いので海には入れないけど、気分転換にはもってこいだ。きれいな海を眺めていれば落ち着くかもしれない。

けれど下関の方なら遊ぶ場所もある。祭りの日に出歩いたとはいえ、一人で行くのは久しぶりになる。行ってみたいところもある。僕は停まっていたバスの横を通り抜けようとした。この近辺に住んでいる植木田高校の学生は電車を使わずにバスで登校する。

バスはエンジンをふかしていた。発車する直前に、学生制服の少女が乗り込んでいたことに気が付いた。今から学校に行くのか。バスロータリーの時計が九時三十分を示している。ここから学校まで今から十五分くらいは掛る。一時限目には間に合わないだろうと同情すれば、宮園だった。

僕は息をのんでしばらく見つめてしまった。すぐには目で追う習慣は止められないらしい。宮園は後部座席に腰を下ろしている。やや俯いているので髪の毛が顔の方に掛って表情は伺えない。つい癖で宮園に声をかけようと手を伸ばしていた。

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