第二章
一年一組
家に帰っても何かをするようなやる気は起きず、早めに煎餅布団にもぐりこんだはいいものの、何とも言えない後悔が渦巻いて眠れなかった。
気が付いたら朝になっていて、学校に行きたくないと絶望に見舞われる。宮園の顔を見るのが怖い。宮園の姿を認めてしまえば挙動不審な動きをしてしまうだろう。そうすれば鋭いところがある秋吉が何か思うだろう。おそらく秋吉は興味津々で追及してくる。その時、僕は逃げられるか自信がない。これはダメだなと僕は頭を抱えた。布団から起き上がる。
靴下を探さないと。けれど動けない。まるで体に根が張ったみたいに。靴下は引き出しの中だ。引き出しを開ければすぐなのに、それすらできない。壁掛けの時計が僕を嘲笑うように回っている。今動かなければ遅刻する。
「あんたいつまで寝てるの」
叔母がノックをしている。ちょっと父さん見てあげてと、叔母が叔父をつつくように促した。朝食のパンを咥えた叔父がドアからネクタイを結びながらぬめっと顔を出した。
「大丈夫か」
ネクタイを結び終えた手にパンを持ち替えた。叔父に笑い返そうとしたのに、口角が固まったみたいに動かない。
「あ、ごめん。なんか、学校行けそうになくて」
「そうか」
叔父はのんびりしている。発言も少し間延びしていて目許も垂れているのでナマケモノにも見えなくはない。
「熱はないのか」
「うん」
「体調が悪い?」
「いや。ちょっと、学校でトラブルがあって。大丈夫なんだけど、体が動かなくって」
おじさんはそののんびりした表情で何か考えているようだった。
「そうか。じゃあ、休むか」
「え、あ、え。いいの」
「いつも頑張ってるからな。サボるのも大切。遊んでおいで」
閉まっていく扉の向こうで叔父さんは曲げた口にパンを押し込んだ。
休もうかなと思うとさっきまでの体の重さが嘘のように歩けるようになっていた。扉を出るとおじさんが言葉少なく、叔母さんを説得していた。
「あら、ほんとうに」
叔母が僕の顔色を確認した。
「まあ、そういう日があってもいいんでしょうね。学校には私から電話しておきましょう。まだしなくていいわよね、八時すぎぐらいに電話するわ」