ぼくは少しばかり緊張感に包まれて荷物を車に積んでいた。今日もあったりして、大地瞳子宛の荷物が。あれば、今日も彼女のところに届けなければならない。それがうれしいことなのか面倒なことなのか、自分でもよく分からない。

またくだらないイタズラに付き合わされたら面倒だと思う一方、ハードで退屈な宅配仕事のさなかに遭遇するオアシスのような気もする。それで身構えつつ荷物を積み込んでいたのであるが、底近くになって彼女宛の荷物を発見した時、ぼくは素直にうれしくなった。

また例によって、宛名が『大地瞳子』ではなく、『轟若芽』となっていた。通販好きのようで、今日も通販会社からの荷物だった。

荷物の積み込みが終わると、配達票の束を持って営業所の中に入る。集積場と違ってここは仕事前といったのんびりムードが漂っている。デスクでコーヒーを啜っている、髭剃りあとの濃い川崎所長に挨拶すると、「ほい、今日もよろしく頼むよ」と読み取り機を渡された。

スキャナーと呼ばれているこいつは、電話の子機といった形状をしており、その読み取り部分を配達票のバーコードに向けると、ピッと音が鳴って、液晶画面に配達番号や荷物の数が表示され、記憶されていく。

すべての配達票のバーコードを読み込むと、荷物は五十八個あった。今度はモードを『配達完了』にセットする。そして配達に出掛ける。配達先でサインをもらうごとに、配達票のバーコードを再びスキャナーで読み込めば、今度は配達完了の数が記憶されるのだ。

それで本日の配達数が判明し、ぼくの収入が査定されることになる。中には不在の人もいるから、一つ残らず配り切るということは稀だ。果たして今日はどんな配達となることやら。

今日の配達はツイていなかった。不在の数が多いのだ。不在は嫌だ。そこまで行っているのにもかかわらず金にならないのは、いかにも効率が悪い。

最近では玄関前や宅配ボックスによる置き配も浸透してきていて、以前よりマシな状況になっているとはいえ、置き配指定がなければ相変わらず不在の場合は荷物を持ち帰ることになる。

本来なら不在票を置いてくるべきなのだが、ぼくはそれをしない。このバイトを始めた当初は真面目にやっていたが、それだと中途半端な時間に呼び出されて困ることが判明したのだ。

【前回の記事を読む】次の日も、次の日もぼくは待っていた。けれど彼女はやってこなかった…