そこで私は、シェアハウスへの入居も検討し始め、最終的には現在住んでいる女性専用のシェアハウスに入居した。

そこは古い一軒家を今のオーナーが買い取り、シェアハウス用に改築工事を施した物件で、各個室以外にも広い共有キッチンとリビングルーム、洗濯機二台、バスルーム二室、トイレ三つが備わっていた。それで光熱費、インターネットなどの通信費を含めて月六万五千円、最寄りの駅からは徒歩五分以内という好立地だった。

実家を出て一人暮らしをすることに父が反対することはわかっていた。今まで私の行動に寛容だった母でさえも、少し難色を示していた。しかし、引っ越し先が女性専用のシェアハウスであることを伝えると、父は意外にもあっさりと私の方針を承諾した。

そのとき母は、私が説得材料として用意したシェアハウスの公式ホームページの画面を、羨ましそうに見つめていたのを、私は鮮明に覚えている。

「どういうこと? 連絡は全く取れないの?」

「いや、メッセージを送ると既読は付くけど、返事が来ないんだ」

動揺しきった父の声が私の耳を刺したのは、残業を終えて帰宅し、自室で録り溜めてあったテレビドラマを見ているときだった。

お母さんが帰ってこない、行方不明かもしれない。それを聞いたとき、私が長年恐れていたことが、ついに現実になってしまったのだと思った。その半面、いつか来ると思い続けていたからなのか、私の心中は予想よりも穏やかだった。

「パート先には連絡したの?」

「いや、それが、パートは三ヶ月前に辞めたと、店長から言われて」

父の言葉に、私は絶句した。父はちょうど半年前に、長年勤めた会社を定年退職しており、たまに外出もしていたようだが、これといった趣味がないため、一日中テレビを見て過ごすことが多かったらしい。

対して母は、パート勤務を継続していた。年齢的には父よりも五歳若く、何よりもパートの中では勤続年数が長い人材のため、上司からの頼みを断り切れず、私の学費を支払う必要がなくなった今でも日数や時間を減らしつつも、パートを続けていると聞いていた。

【前回の記事を読む】デザイン事務所にインターン決定!嬉しいはずが彼が心無いことを言い始め…