光秀

「公方様お待ちを。今少し某の話を聞いて戴きたく、公方様……」

⇒公方様は、聞く耳を持たないようだ。席を立ってしまった。しかし、身共が信長様に仕えた真意はお伝えすることができたので、これで止むなしとせざるを得ないか……。

2.夫婦愛

元亀三年七月五日<坂本城天守閣>

光秀

「煕子よ、昨年九月から築城を始めたこの坂本城が先月ほぼ完成した。本日は新しくできた天守閣を、お主と二人きりで見ようと、かくも用意したのじゃ。ほれ、ここから見る景色はまた格別ではないか。今朝は晴れているので廻りの景色がこのようにはっきりと見渡せる。西には緑に覆われた比叡の霊峰が見え、琵琶湖の湖面のさざ波が光輝き、眼下には田畑が限りなく広がっている」

煕子

「誠に、夢のような眺めでござりまする。これも一重にあなた様のご活躍のお陰にて、煕子は幸せ者にございます」

光秀

「まだまだこれからじゃ、明智家が益々富み栄えるのは…今我らがあるは、浪々のみぎりから苦労を共にしてきた、お主のお陰でもある。信長様は厳しいお方で勤めるのも骨が折れるが、幸い儂を信頼し重んじてくれている。天下布武の道のりは今が胸突き八丁、益々大変になると思うがこれからも宜しく頼む」

煕子

「もったいないお言葉にございまする。私は殿を全てに信頼申し上げ、ひたすらついて参ります。まあ、本当に湖がキラキラ輝いて美しいです。あら、二羽の白い鳥が泳いでいます。城の下方には民家があり、沢山の人達が歩いておりますね」

光秀

「これから二、三年の内には城下の町並をもっと広げ、日ノ本一富み栄える、大きな城下にしてみせようぞ」

煕子

「それはそれは、楽しみにしておりまする……」

光秀

「うむ、楽しみにしておれ。また、お主の妹のツマキ殿は、上様の元に上がっており、上様から大変なご寵愛を受けておるが、お主との仲も良く、儂にもいろいろ重要な情報を、お主を通して知らせてもらっており、感謝している。機会あればツマキ殿に、お主より京より取り寄せた反物など届けてやって欲しい」

煕子

「まあ、細やかなお心遣い。妹も喜びまする。ありがとうございます」

【前回の記事を読む】功労者明智光秀、坂本城築城!織田家臣初となる城持ちで大出世