夢の中で僕は少女と桜の花びらを集めていた。
少女は千代紙で作った綺麗な箱に花びらを入れていたので僕は少女のためになるべく形の整ったものを探して渡す。
いくら拾っても花びらはなくならない。はらはらと次から次へと舞い下りてくるから二人とも嬉しくなって踊り出していた。
少女は黒髪をなびかせてくるくる回る。僕がタタンタンと足を鳴らしながらリズムを取ると少女はぴょんぴょんと飛び始めた。
スカートが揺れる。
少女の笑顔を見て僕は嬉しくなる。嬉しくなってもっと踊る。
少女の手を取ってくるくる踊る。
周りの景色がぼんやりとして僕は僕であることさえわからなくなる。
「あれ? 君は誰?」
急に少女の笑顔は歪んでいった。
醜く歪んでいった。
僕は怖くなって手を離す。
少女は悲しそうな表情を見せた後、花びらと一緒にハラハラと散っていった。
花びらは深緋色(ふかひいろ)に覆われ濡れたような艶がなまめかしく僕はめまいを起こしそうだった。そう、めまいのせいにしてすべて知らなかったことにした。
もう一人の僕が見なかったことにしようよと言ったからだ。
僕は卑怯な人間なのだ。
自分が傷つかないために真っ当なことであっても主張しない。
だから僕はずっと後悔しながら生きてきたのだ。