まさに一瞬の出来事で、店の人もお客も呆然と見ていた。丸田の隣に座って居た男も立ち上がり、様子を見るように大きく覗き込んでいた。

東京着荷に前にはロサンゼルスの空手道場・師範代を務めていた丸田譲二は、彫の深い顔と西郷隆盛似の太いゲジゲジ眉が特徴で、構えた時に狼のような眼が相手を威圧する独特のオーラを放つ。黙って二人を睨みつけ、

「出て行け!」と一言、言った。

男二人は立ち上がろうとするが、余りの痛さに顔を歪め、膝を押さえ、震えるだけで力が入らない。 

必死に手を伸ばし、何とか椅子を掴んでヨロヨロと立ち上がり、

「なっ! 何すんだ! コノヤロー」

と叫びながらも形だけ睨んで、出入り口からそのまま出ようとする動きを見た丸田は、直ぐに、

「おい! 待て!」

と大きい声で怒鳴り、二人はビクッと震えた。

「お前ら、頼んだ物を支払っていけ! 当たり前だろうが!」

「おばさん! 二人で幾らですか?」と問うと、

「いや、もう結構です!」と怯えながら答えた。

丸田は、

「壊れ物も有るんだ! 二~三千円置いて行け!」

と怒鳴った。二人は、

「食べてもないのに、何で払わなければいけねえんだ!」と叫ぶ。

丸田が、「又、蹴られたいのか!」と怒鳴り上げると、足を蹴られた方が直ぐポケットから千円札を四~五枚出して、二千円を抜いて出した。