これからどうしたらいいんだろうとは思うが、それ以上にあの男子生徒が気になり頭から離れていかない。あの二人は花壇でいったい何の話をしていたのだろう。果たして彼は花が好きなのか、それとも橘先生を好きなのかと考えてみても、そんなことはわかるわけもない。

憧れの橘先生にでさえ少し嫉妬して羨ましいと思う。歩けば歩くほどそのことで頭がいっぱいになり、それをうまく纏める方法がないかと思いを巡らせているといい考えが浮かんできた。

今日から日記のようなノートを作って自分の見たことや感じたことをそこに書き込もう。家用と学校用に二冊作り、そこには彼のことだけを書こう。そうだ……ノートに描くオリジナルマークは大好きな幸運のカタバミの四つ葉のハートで、カタバミノートという名前にしよう。

家に着いた梨花が母親の梨枝に笑顔で、「ただいま」と元気よく言うと梨枝は、

「あら、リカちゃん学校でいいことあったのね。表情が柔らかいし綺麗になってる。もしかして初恋なのかな」

と娘の顔を嬉しそうに覗き込む。

「……どうかな」

と梨花が口ごもると、

「お父さんが亡くなって初めてリカちゃんのそんな顔を見たからお母さん嬉しくて……」

と梨枝の瞳が潤んだ。

「お母さん、まだまだこれからよ。私の戦いはさっき始まったばかりなんだからね」

と言うと鞄を持ち、梨花は階段を上がり自分の部屋に行き机の中から新しいノートを取り出した。

まず、家専用のカタバミノートを作り始める。ノートの表紙に緑色のラインマーカーの太字を使い四つ葉のハートを大きく書き、黒いボールペンでその中に時計回転に風、神、優、凪と一文字ずつ入れていく。

不思議なことに彼の名前を記しただけで胸の奥から音が聞こえてくる。暫くその文字を目で追いかけていたが、人差し指で文字に触れながら、「私を応援してね」と呟いた。

表紙を開けて一ページ目の上の欄外に優凪君プロフィールと記す。次のページに今日の日付を書き、その横にラインマーカー緑色の細字を使って小さいカタバミの四つ葉のハートマークを描き四枚のうちの一番上の葉だけをはみ出さないように注意して塗り潰しながら……これから願いが叶うたびに一枚ずつ塗ることにしようと思った。

一段あけて、自分が学校の花壇で見た憧れの橘先生と思いを寄せた風神優凪の二人が作り出した素敵な情景を思い浮かべて文章にイラストを挟んで描いていく。

彼の顔はまだはっきり見ていないので、とりあえずぼやけさせておくことにしよう。描き終わると着替えてから部屋に飾ってある花に手を合わせて来年は彼と同じクラスになれますようにと心を込めて祈る。そして母親の仕事の手伝いのために急いで階段を下りて行った。

【前回の記事を読む】「先生の隣にいるのは誰なの?」親友の美しく澄んだ瞳には彼しか映っていなかった