長老がハナコ達に授けた特訓は、まず、戦う際のすばやい身のこなしだった。

これはデビルの十本の足に巻かれないよう逃げる方法でもあった。また、デビルの足に巻かれたときには身体をねじって逃げることも教えた。

そしてデビルの力が強いので味方の援護がなければ逃げられないから、誰かがデビルに巻かれたら、ほかの四頭が超音波攻撃や体当たり攻撃で助けるのだ。要はチーム・ワークだ。

また、マッコウクジラの戦いの定番である高い周波数の超音波を連続して発射する方法や、勢いよく体当たりする方法などを訓練した。

体当たりの練習はハナコ、コジロー、センスイ、タイアタリが実際に体当たりをして行った。もちろん、怪我をしないよう、細心の注意を払って。

体当たりに関しては、やはりタイアタリが一番だった。まだ若者だが成熟したオスにも負けない威力を持っていた。デビルとの戦いに際しては、きっと力強い戦力になってくれることだろう。

センスイは一時間以上海中に潜っていられた。デビルと戦う長老の作戦上、なくてはならない存在だった。

ハナコ達は特訓を受けて日に日に逞しくなっていった。長老は四頭に特訓を施しながらデビルに勝つための作戦を練り上げていった。

十 デビルとの決戦

厳しい特訓が続いた後、ついに決戦の日が来た。五頭は海上で何度も潮吹き(ブロー)を繰り返した。

これが彼らにとって最期の潮吹きになるかも知れないのだ。彼らは何度も潮吹きを繰り返し、筋肉の中のミオグロビンに酸素をタップリ取り込んだ。

潮を吹きながらハナコは緊張のあまり身体の震えが止まらなかった。ふと見ると、コジローもセンスイもタイアタリも同じように震えていた。怯えているのではない。武者震いなのだ。

「みんな、準備は良いか。さぁ、行くぞ」

長老はそう言うと真っ先に海中に潜っていった。ハナコ達四頭も後に続いた。いよいよ出陣だ。

五頭は頭部を海底に垂直に向け、真っ逆様に潜った。その反動で尾ビレは南の海の天空高く舞い上がり、一瞬止まったかと思うと、やがて海中に没した。彼らは脳油を冷やして比重を重くし、猛スピードで潜っていった。

百メートル……、二百メートル……、三百メートル……。

あたりはもう真っ暗闇だ。

四百メートル……、五百メートル……。

ハナコ達は探索用の超音波を発して周囲を用心深く窺いながら潜っていった。

マッコウクジラの耳は体内に仕舞われており、音はあごの骨で受け止めてから体内の耳に伝わるのだ。

その時ハナコの耳は異様に大きなダイオウイカの存在を認めた。はね返ってくる超音波で察知したのだ。デビルだ。ほかの四頭も、デビルの存在に気づいたようだ。ちょうど水深千メートルの場所だった。

【前回の記事を読む】我が子の身代わりとなってデビルと戦いに行った父。その行く末は・・・。

【第1回から読む】マッコウクジラのハナコ、家族思いのお父さんに狩りを教わる!