私はざっと資料に目を通しました。
小出美夜子、三十七歳 Ⅰ県神立郡月ノ石町五―四―一 T女子大学文学部国語国文科卒
都内の某一部上場企業で五年ほど役員秘書の職歴もありました。大同石材とは規模も格も異なる超有名企業です。
「ほう、秘書の経験があるのか」
私の脳裏にふと加瀬久美子の面影がよぎりました。こちらに来てから初めて久美子のことを思い出したことに半ば愕然としながら、私は応接室のドアをノックしました。
「はい」
少し間をおいて、中から涼やかな返事がしました。
「失礼します」
最初に目に入ったのは、きりりと後ろで束ねた艶やかな長い黒髪でした。応接室の入り口に背を向けるような位置に小出美夜子は座っていたからです。私はなぜか鼓動が速まるのを意識しました。
小出美夜子を右手に回り込むようにして、応接セットの向かい側に私は立ちました。すると小出美夜子もすっきりと立ち上がって深々と一礼し、
「はじめまして。小出美夜子と申します。今日はお忙しいところわたくしの面接のためにお時間を割いていただきましてありがとうございます。よろしくお願いいたします」
と丁寧に挨拶をしてきました。
「おはようございます。副所長の佐伯です。お待たせしてしまいましたね」
「いいえ、わたくしが早く来てしまいました」
「予定時間より早いですが、始めましょうか」
私は正面からまじまじと小出美夜子の顔を見ました。
美しい。抜けるように白い肌、密集した濃く長いまつげに縁どられた大きな黒い目が輝いています。鼻筋は程よく通り、長過ぎも短か過ぎもしない距離を保ちつつ鼻先へとわずかに上向く曲線を描いています。
