「君の家は神社の隣にあるのか」
「神社の隣じゃありませんよ」
「じゃ、庭に神社があるのか」
ぼくは不安になって大尉の顔を見た。本当にこの人は読めているのだろうか。
「そんなものありませんよ」
大尉はちらと横を見て柏木神社の鳥居を指して言った。
「あんな物があるんじゃないか」
ぼくは飛び上がった。
「前に住んでいた家の庭に小さなお稲荷さんがあるんです。その家に今は住んでいないんですけど」
大尉はもう先の方を読んでいてぼくの返事は聞き流された。
「この手紙に鋲が入っていなかったか」
「入っていましたよ。どうしてわかるんですか」
大尉は初めて声を出して笑った。
「書いてあるんだ。わかるに決まってる」
ぼくはもう尊敬と驚きでいっぱいになって、この焼きイモ屋さんの縄で縛った頭を見ていた。
大尉は読み終わって顔を上げた。辞書など一回も使わなかった。
「ここで内容を言ってもいいんだが、お前、この手紙は何回も読んだ方が良い。書いてやるから家に帰って読め」
大尉はザラ紙を台の下から出して鉛筆で書き始めた。
その間にもお客は何人か来て、ぼくは一生懸命になって焼きイモを売った。
「さあ、できたぞ」
大尉は紙を四つにたたんでぼくに手渡した。
「もし返事を書くなら俺のところへ持って来い。今度は金を払えなんて言わないからな」
帰る途中でぼくは四つにたたんだ紙を開いてみたい気持ちを抑えた。そして家に帰ると勉強机に向かってそれを開いた。
―私の友達へ。
右手の薬指の骨が折れていて痛むので字が汚くて済みません。
私は、あなたとあなたの死んだ妹さんの写真を持っています。
私が今住んでいて、あなたが前に住んでいた家の庭の〈神社〉の中に入れてあった一枚の写真を、ここに住み始めて間もなく私は見つけました。
それには男の子と女の子が並んで写っていました。…