砂の道
秋の夕暮れ。十才の私は歩いて五分程の海へ走った。
素足にちびたサンダルを履き、思いっきり走ってゆく。土手の階段を十段程かけのぼると、海が一面に広がっている。もう誰もいない砂浜をザクザクと歩いて堤防に着くと、足をブラーンとさせ座って海を眺めている。海は小さな湾で、波もなく遠くに水平線が見える。
もうすぐ陽が落ちる。水平線が真赤になり、最後に点となり、海の向こうに消えてゆく。太陽は燃えるようで、またとても悲しい。
十才の私は、「死にたい!」というより、この世界からいなくなりたいと海に来る度に考えている。その度に、祖母が私の名を呼ぶ声が聞こえてくる。私がいなくなればどれだけ哀しむか、苦しむか!
もう帰らないと。
堤防から腰をあげ立ち上がる。砂浜をゆっくりゆっくり土手に向かって、トボトボと歩いて家に向かう。砂地は足をとられ歩きにくい。海で考えたことは何もなかったように玄関の戸をガラガラと開けた。
「ただいま」