「いかん、いかん。そんなことをしたら、ジローの死が……」
無駄になる、と言いかけて、長老は口をつぐんだ。ジローの死を、そんな風に言いたくなかった。しかし、コジローは長老の気持ちを察して言った。
「僕はお父さんがデビルと戦って死んでしまったことが無駄死にとは思いません。お父さんは正々堂々と戦ったんです。負けたことは残念だけど、お父さんとして、満足のできる一生だったと思います。たとえお父さんが僕に仇討ちをさせたくなかったとしても、これは僕自身の問題として、僕はデビルをやっつけたいんです」
ハナコも言った。
「わたしもジローおじさんが長老に何と言ったとしてもデビルと戦いたい。そしてデビルをやっつけたい。家族やミミちゃんやジローおじさんの仇を討ちたい」
長老は二頭の決意が固いことを察した。もはや二頭を引き止めることは不可能だと思った。
「ハナコ、コジロー、こうなってしまった以上、お前達に仇討ちを諦めろ、遠くの海で平和に暮らせと言っても無理だろう。よし、わかった。もう、止めん。デビルと戦うがいい。しかし、今のままではお前達に勝ち目はないぞ。だからわしがお前達に戦いの特訓をしてあげよう。そしてわしもいっしょに戦おう。わしにも責任があることじゃ。わしがもっと強くジローを止めれば良かったんじゃ。すまんな、コジロー」
沈んだ口調の長老の言葉に、コジローはびっくりして言った。
「えっ? 長老もいっしょにデビルと戦うんですか?」
すると長老はこともなげに言った。
「当たり前じゃないか、コジロー、何を驚いておる。わしはお前達の親代わりじゃ。いずれはお前達の仲人もさせてもらおうと思うておる。そのわしが、お前達といっしょにデビルと戦わなくてどうするのじゃ」
「でも、長老はもうお年齢だし……」
ハナコが心配そうに言うと、長老は怒ったように言った。
「ハナコ、何を言うか。わしはこう見えても歴戦の強者じゃ。世界中の海を渡り泳いで今日まで生きてきたんじゃ。まだまだ若いモンに負けはせんわい。このわしが実戦で学んだ全てをお前達に伝授したいのじゃ。デビルと戦うのはそれからでも遅くはあるまい」
そう言ってから、長老はしんみりとした口調で言った。
「わしはもう老い先短い身じゃ。いずれこの世から消えてなくなることじゃろう。だから死ぬ前に群れのみんなの役に立ちたいのじゃ。お前達だけのためではなく、群れのみんなのためにもデビルをやっつけたいのじゃ。わかってくれんか、ハナコ、コジロー。わしも仲間に入れてくれんか」
真剣に訴える長老のまなざしに、ハナコとコジローは反対できなかった。こうしてハナコ、コジロー、長老の三頭でデビルと戦うことになった。