3.結論

3-3 考察

今の手話通訳者を専門職と位置づけるには、他の専門職と比べて考えると、わかりやすい。私は精神保健福祉士の資格も持っているが、手話通訳者と比べると、国家資格なので、受験資格が厳しい。

他の手話通訳者から、「なぜ大学で福祉を学んだのに、社会福祉士の資格を持っていないのか?」とか、「社会福祉士を取得するために、福祉系大学院へ進学したのではないのか?」等と質問されたことがあり、「受験資格を持っていないので、国家試験を受験できない。」と答えたら、「学校を卒業すれば、誰でも国家試験を受けられると思っていた。」と言われた。

現在の手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)は、20歳以上しか受験できないと決まっているものの、実務経験は3年以上が望ましいとされているだけで、自己申告であり、3年未満だから受験できないという訳ではない。また、最終学歴は問われても、どんな分野が専門なのかを知るための参考程度なので、高卒でも合格し、大卒でも不合格だったりする。

手話の関係者ではない知人からは、「大学で手話通訳の資格を取ったんですよね。」と言われたことがあるが、私の学部在学中には、手話通訳者を養成する専門学校はあったものの、大学で手話通訳者を養成するところはまだなかった。

だが、それでも、4年間学んで資格を取ったと思われ、ホッとしたのを覚えている。人によっては、「何か月で手話通訳のお仕事ができるようになるんですか?」と聞いてくるので、返答しようとする前に、そんなに簡単に見えるのかと、まずズッコケてしまう。

今は、東北福祉大学・龍谷大学・山口県立大学・長崎純心大学等で、手話コミュニケーション講座が開講されている。また、龍谷大学では、手話ステップアップ講座(旧手話通訳講座)も開講されているが、公開講座と位置づけられていて、他大学の学生や社会人も受講できるようになっているので、手話通訳者を目指したければ、以上のような大学にアクセスしてみるのも、一つの方法である。

手話通訳者がなかなか専門職と位置づけられないのは、手話通訳者が福祉の仕事ではなく、外国語の通訳同様、言語通訳者と見られている可能性も否定できない。英検のように、「何級を持っていれば、手話通訳ができるのですか?」と尋ねる人もいる。

だが、それでは、ケースワーカー的な役割も兼ねる、行政の設置通訳者は、どう位置づければいいのだろう?

「手話のできる受付嬢」というイメージでとらえられることも多い。聴覚障害者にとって、手話通訳を利用することは、日本国憲法第25条第1項に掲げられている、「健康で文化的な最低限度の生活」を送るための当然の権利で、生活をより良くするために受けるサービスとは違う。

そして、手話通訳者を増やすなら、これまで戦力の中心だった、家庭の主婦ばかりに頼るのを、そろそろ終わりにしなければならないだろう。晩婚化・晩産化が進んできただけでなく、有職女性が増え、専業主婦が減っている。

これまでにも言われてきているが、手話通訳で得られる収入も、せめてパート代くらいにならないと、積極的にやろうという人が出てこない。

将来、手話通訳者が、子供達から憧れられる仕事になればうれしいが、現状では程遠い。せめて、やりたいという人にお勧めできる仕事になって欲しいと、切に願っている。

なお、本論文では取り上げられなかったが、諸説ある「専門職の条件」に、今の手話通訳者がどう当てはまるか、何が足りないか等を、千葉県手話通訳問題研究会が創立50周年を迎える2028年4月までに何らかの形でまとめ、伝えられるようにするのが、筆者自身の今後の課題である。