底につきそうな段階まで落ちていたトラヴィスのトーンは元の段階に戻った。推理の続きはまたあとにでもやればいいと気持ちを切り替えた。

家のドアをノックしたのはドランとヘラだ。二人は元々俺と同じ、仲がいい幼馴染だ。そのなかから二人は恋人関係に発展し婚約した。今日のパーティーのために招待状に自宅の住所を書いて全員に送ったが、俺は自宅に表札をかけていなかったので迷って遅れたそうだ。

俺はドランに会えることを心待ちにしていた。玄関まで向かいに行ったステファニーは、そこで自己紹介を交わしているみたいだ。ステファニーは夫婦をつれてリビングに戻ってきた。

「みんな久しぶり」

ロングヘアの似合うヘラは以前より顔立ちが大人びていた。二重の瞳がトロンとしている表情は、決して歓喜に満ちている表情ではない感じだ。きっと俺の勘違いだ。

「何年ぶりだろう。でもおかしいな、ドランとは全く久しぶりな感じがしないな」

トラヴィスは席を立ちあがり、ドランに歩み寄りハグをした。

「俺は皆と会うのが久しぶりな感じがするけどな」

といいドランはトラヴィスの手をふりほどいてロン毛で毛むくじゃらの髪形を整えてからヘラとテーブルの方へ歩き出した。

ドランはトラヴィスの誘導によってトラヴィスの隣の席に座わった。ドランの隣には妻であるヘラが座った。こうして五人はテーブルを囲むように座った。

「ドランが久しぶりな気がしないのは、よくテレビで見ていたからだろ」

とドランに向けて指をさす。

「バートのいう通りだわ。私も初めて会った気がしないもの」

ステファニーはドランを見た時から興奮が一向に冷める気配がない。ステファニーは続けて

「まさかバートたちのお友達に有名人がいるなんて驚いちゃったわ」

という。音楽については様々な好みを持った人たちが世の中にたくさんあふれている。そのなかでもドランの音楽を愛する姿勢は誰にも引けを取らない。

「小学生のころからドランは音楽が好きだったのよ。毎日ピアノ、ドラム、ギターを習っていた成果が今のオーケストラをまとめる指揮者という仕事につながっているのよ」

ヘラはステファニーに説明を始める。ヘラは既にステファニーと打ち解けていたから気を使うこともなく安心した。

「それは違うな。ドランは努力で高度な技術を習得しただけじゃなくて、絶対音感という恵まれた才能を持っていたから前代未聞のクラシックツアーを成功させることができた」

音痴だった俺はドランの絶対音感に憧れていることから、ドランのことを誰よりも詳しいと思われるヘラの意見でさえ否定した。

「才能じゃないよ。努力したからオーケストラの指揮者になれたんだ。業界に入ると絶対音感の人なんてごまんといる。今後はその才能にあふれている新人を発掘する仕事をしようと思っている」

有名人と思えないほどドランは謙虚だ。

トラヴィスは

「人を教育する立場にはならない方がいいぞ。教え子が上手く育っていく保証はない」

と教師としての助言をする。

しかしドランは

「問題は構造だ」

とトラヴィスに対して反論を始める。

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