第四章 自覚
自己中心的で乱暴なマイケル
うちは俺と妻と息子の三人暮らし、のはずだった。なのに、妻は不可解なことを言い出した。
「うちにもう一人男の人が住んでいて、四人暮らしって知ってる?」
「え、何それ?」
「私は、その男の人をマイケルって呼んでるんだけどね」
妻が言うには、マイケルという男が家にいるそうで、その男の性格を語り始めた。
「マイケルは、自己中心的でね。声はすごく大きいし、言葉遣いはめちゃくちゃ汚いし、極めつけは、家具を壊すし、家族に危害を加えるとんでもない奴なんだよね」
「誰だよそれ」
俺は、そのマイケルという奴が一緒に住んでいることを知らない。
「ねえ、この動画見てよ!」
「なんだよ。面倒臭いなぁ。後にして」
「え〜、ここにマイケルが映っているんだよね」
「それってゴーストかよ。そういうの、やめろよ」
最近の妻は、いつもメモをとっていたし、スマホをいつも持ち歩き、何かと動画を撮っては、撮った動画を俺に見せようとしていた。俺が相手にしなかったことを不服に思った妻は、次なる行動に出た。
月一回の脳神経外科の受診日に、俺と一緒に行くと言い出したのだった。妻は、俺を差し置いて、ノートとスマホを持って主治医に見せていた。
「黒木先生、コレを見てください」
「これはなんですか?」
「夫が、夜遅く仕事から家に帰って来たときのようすです」
そして、先生に見せるフリをして、俺にもその動画を見るように言ってきたのだ。
しぶしぶ見たその動画に映っていたのは、家の中なのに、俺じゃない男が映っていた。