私の兄は権田原正一といい、実はこの日野多摩村の村長をしている。しかし、先月体調を崩し、村から遠く離れた新宿の大学病院に入院した。その兄の病状を役場の皆さんに報告するため私がやってきたというわけだ。

兄・正一と私は一卵性の双生児で、まさにソックリだった。子供の頃から、「よく似てるね」「ハンコで押したみたいだね」「金太郎あめみたい」と言われたことは数知れず。幼稚園や学校の先生に兄と間違えられ、身に覚えもないことで叱られたことは山ほどある。両親でさえ間違えるのだからもう仕方がない。

見分ける方法を聞かれるが、口元に小さなホクロがあるのが私で、ないのが兄。少しスリムなのが私で、少しぽっちゃりしているのが兄。その程度なのだ。だから他人からはまず区別がつかない。

「女たらし」(あ、村長さんの名誉に関わることなので訂正する)「遊び人」である兄の彼女が抱きついてきたときは、一瞬黙っていようかと思ったが、さすがに丁重に説明をして離れていただいた。

人生四十五年も双子として生活しているので慣れてはいるものの、村長とフリーターとを間違えられては、さすがに心苦しいものがある。役場の中が騒然とする中、女子職員が慌てて作った花束を渡してくれた。いつの間にか職員たちの輪ができて、みんなで拍手をしてくれた。

(花束に白い菊まで入っていて葬式みたいじゃないか)

「村長、おかえりなさい」

「あ、ありがとうございます」

にこやかに笑いつつ頭を下げるしかない。

(これでは兄の話はできない)

その後、幹部らしき人たちが私を村長室へと連れていく。

「どうぞ、久しぶりに村長のイスにお座りください」

さきほどの白髪の職員にすすめられ、村長のイスに座らされてしまう。

(勘違いされ、無理やりではあるけれど、座り心地は悪くない)

「村長、いい顔色されていますね。体調は、もう万全ですか」

白髪の職員が嬉しそうに手を揉みながら聞いてくる。

「う、うん。そ、そうですね」

差し障りのない返事をしておいた。

(これでは、本当のことは言いにくい)

「村長、お疲れですよね。お茶でも飲んでゆっくりしていただいて、その後、打ち合わせをお願いします」

職員たちは部屋の外にそそくさと出て行った。しばらくすると、女子職員がニッコリ笑いながらお茶を運んできた。ただ部屋を出て行く際に小さく首を捻っていたのがちょっぴり気になるが。