【前回の記事を読む】量的生き方は質的生き方への足がかり…大自然の申し子としての人間の大きな課題
三 精神的いのちの創生
1 創られてゆくいのち
何度も述べるように人間の精神的いのちは、レベルⒸの知識技術的・適応的精神領域と、レベルⒹの人格的・創造的精神領域に分けて考えることができます。レベルⒸの精神領域もレベルⒹの精神領域も、人間特有の誇るべきいのちの領域です。しかしながら、この両者の間には、決してないがしろにできない大きな差異があることを見逃してはならないのです。
レベルⒸの知識技術的・適応的精神領域とは、多くの知識・技術を身につけ、多くのモノを所有して「うまく生きてゆく」ことを目標とする精神領域のことです。勉強ができて良い大学にも行け、収入の良い安定した仕事に就けることを人生の目標とする生き方のことで、これはまさしく昨今の人間社会で重要視され、学校教育でも力を入れている精神領域であると考えられます。
一方、レベルⒹの人格的・創造的精神領域とは、単なる知識技術の集積結果としての人間力ではなく、知・情・意のバランスのとれたハートフルでハーモニックな精神領域(心情)としての人間力のことです。身につけた精神性“spirituality”を駆使して人間としての品性を整え、「よく生きてゆく」ことを目標とする精神領域のことです。
具体的に言えば、for me、for usオンリーの生き方を乗り越えて、with you,for all(あなた・あなた方とともに、みんなのために)の気概で生きてゆく精神領域とでも言いましょうか。このレベルⒹの精神領域こそが、大自然の密かに設えた理想域なのです。
しかしながらこのレベルⒹの精神領域については、昨今の家庭教育や学校教育においてはほとんど手つかずの状態であると言っても過言ではないでしょう。だから私はこのレベルⒹの精神領域のことを「未墾の精神領域」と言っているのです(口絵参照)。
創られてゆくべきいのちの領域が手つかずの状態にあるのです。このことにどう対処していくかということが、今を生きるわたしたち人類の抱える当面の最重要課題ではないでしょうか。レベルⒸの「うまく生きてゆく」生き方を乗り越えて、レベルⒹの「よく生きてゆく」生き方へ進化していくことなくして、人類の明るい未来は期待できないのです。