「暗い陰のあるミステリアスな女って、どういう意味だ?」
加藤がそれに返事をせず、そこで話題を変える。
「それにしても今日の圭のプレゼンテーションには感心したよ。見事なものだ。コンピューターの画像処理システムに興味を示していた高木教授は、きっと新システムの契約を承認してくれると思うよ。契約がとれたら圭に一杯奢るぜ」
車をマンションの入り口に横付けして圭を降ろし、加藤は車のフォンを軽く鳴らして帰っていった。
次の日、圭は研究所の自分の部屋でパソコンを立ち上げてメールをチェックしている。そのメールボックスには、件名が赤い色になっている未読メールが五十件ほど入っている。まずメールのタイトルと発送者を見て、メールの処理の優先順位を決めていく。
その日、グローバルプロジェクト関連の至急メールが十件ほど入っていて、その処理に追われる。至急メールの処理が終わり、朝サイフォンで沸かし、会社に持ってきたコーヒーをマグカップに注ぐ。コーヒーを飲みながら、残りのメールを素早くチェックしていく。
メールの中に見慣れないアドレスから送られてきた、『ありがとうございました』という件名のメールがある。そのメールを開いてみる。
『東山様、昨日はご講演まことにありがとうございました。一緒に昼食をとらせていただいた高木玲子です。いただいた名刺のメールアドレスに、このメールを送らせていただきました。とてもぶしつけなお願いではございますが、先日、東山様をお見かけしたサーフショップで、今週の土曜日に新しいボードを購入したいと思っております。もしお時間がございましたら、私に合うボードを一緒にお探しいただけませんでしょうか。よろしくお願いいたします。高木玲子』
すぐ返信のメールを書く。
『高木先生、了解いたしました。あの店のオーナーはよく知っていますので、高木先生が新しいボードをお探しの件、伝えておきます。今週の土曜日、朝八時頃にはサーフショップにいますので、そこでお会いしましょう。東山圭』
圭はメールを返信し、通常の業務に戻っていた。