事実と意見

考え方、思考のあり方というのは本当に大事なことであると、その後も何度も言われたし、これは子どもの頃から変人ポーが常に言っていたことだった。自分の状況、結果、自分の周りに起こるすべての事柄、人生というのは、すべてここ(頭を指して)から生まれる、と。そしてこの考え方と強く関係してくるのがその人が発する言葉だと。

これら言葉や思考の使い方が、その人の人生をそのまま反映させていること、それを変人ポーは、ボクに改めて徹底的に伝えようとしていた。

しかしながら、真実だとかそういう言葉が出てくると当時10代も半ばであった自分には理解が追い付かない部分もたしかにあった。ボクのその反応の鈍さを見て変人ポーはこんなことを聞いてきた。

「最近、スクールや友達の間でどんな話題がある?」

ボクのほうに話題を寄せてくれたのである。

「最近の話題と言えばBankの別れ話だよ」

「ああ、Bankってこないだも遊びに来ていた子だったな」

「そうだよ。それがひどいんだ、Bankは付き合っていた彼女にフラれたんだけど、そのフラれる前に彼女が男の人とデートしていた目撃情報があったんだ。もう、ボクらの間ではいま正にホットな話だよ」

こう言うと変人ポーはボクの気持ちを察してか控えめに、されど一瞬ニヤッとしたのをボクは見逃さなかった。そしてボクは変人ポーの術中に引きずり込まれそうだったので、そこで話すのをいったん止めた。

「それはひどいな。じゃあそのひどさ加減をもう少し詳しく教えてくれ」

意外とボクに同調してくれた変人ポーにつられて、ついそのまま続けた。

「で、ボクらで実際にそのデート現場を見たというクラスメイトに問い質して、だいたい相手が誰かが特定できたんだ。その相手は1コ上の先輩らしい」

「ほう。それで?」

「それでいまBankが一人でその先輩のとこに行くのか、仲間うち何人かで行くかを話しているとこなんだ」

「先輩のところに行ってどうするの?」

「どうするのって、そんなの決まってるでしょ、文句を言いに行くんだよ!

Bankも怒ってるし、ボクらも見て見ぬ振りはできないでしょ!」

変人ポーは相づちを打ちながらも、しばらくは黙っていた。ボクも興奮していた熱が下がってきて、その熱が下がったのをまるで待っていたかのように変人ポーはこう言った。

「そもそも、Bankがフラれた理由はなんだったんだい?」

「好きな人ができたんだって。Bankがそれは誰かを聞いても決して答えることはなく、ほぼ一方的にフラれたんだ。ボクも彼女とは仲良かったからね、あとでさりげなく事情を聞いてみたけどBankをフッたことをただ謝られただけだった。Bankはすごく彼女のことが好きだったからさ……こんな裏切り、ひどくて見てられないよ」

変人ポーはまた相づちを打って沈黙した。二人で黙って囲炉裏の中のもちを見ている時間が、数分ながらも長く感じるその時間だけが、二人の空間を静かに流れていった。

【前回の記事を読む】「同じ人間なのに、何でこうも違った思考が出てくるんだろうか」変人ポーの答え