十一月九日
ひとの心をなぐさめるお医者さん、それとも子どもを楽しませる優しい本を書く人、さもなければ、正義の味方のジャーナリスト。に、なりたいと思っていました。でも、どの道も、自分の学力ではダメと思って、あせっていました。特に私は数学がひどくて、それを思うと食が細って、やせてしまうのでした。当り前か不思議か分りませんが今も実に、お買物の計算などヘタで恥かしいのです。
夢 モンシロチョウ
寒くなりました。森の方が黒ずんで、牧夫さんの薪割る音がコーン…と、空のうんと遠いところに消えて行きます。少し前から雪がふりはじめたのでゆうべは院長様が湯タンポを使わせて下さいました。
湯タンポをして寝たら、ひと晩中色々な夢を見続けました。私が牛の赤ちゃんのようなものになって牛のお母さんのようなものの薄桃色の胸の中でお乳を吸っていたり、田んぼのほとりのお地ぞう様によりかかって日射しにカンカンと照らされていたりしましたが、そのうちにまっさおな空と、その下に見渡すかぎりのナノハナバタケが拡がっていて、私はそこで水に潜るように花の中をかきわけて低空飛行をしてみたり、グンと胸をそらせて花の上に出たりしながら一生懸命に飛んでいるのです。
そして、ところどころにある水たまりに顔を映してみては
「まだモンシロチョウにならない」
「まだだめだわ」
と云って飛び続けているのです。
ふと見るとあっちの方にエフレム様がコウモリガサをひろげてタンポポの種のように漂っておられます。両手をラッパのようにして
「ヤッホーエフレム様もモンシロチョウになるのですかあ…」
とたずねると
「はい、そうですけも(そうですけれども)わたしきもの黒いからむづかしいよ」
と応えていらっしゃいます。くたびれて、汗ぐっしょりになって目が覚めました。大急ぎでベッドからとび降りて鏡をのぞいたら同室のよっちゃんが
「いつ見たってちょっぺのニキビが減ってなんかいませんようダ」
と笑いました。