カラスのクロ
突然の訪問
春のうららかな日曜日、純二はテーブルで本を読んでいました。そのとき、窓ガラスを“コンコン、コンコン”とノックする音に振り向くと、窓の外に大きな真っ黒なカラスがこっちを睨んでキョロキョロしています。窓の桟は狭いのでグラグラと落ちそうになりながら、足の位置を微妙に変えながらバランスを取っていました。
「早く開けてよ」
と言っているように、“コンコン”とまた窓ガラスをノックしています。純二が、
「お父さんどうしよう。カラスだよ」
と叫ぶと、父の和夫さんが隣の部屋からやって来て、驚いた表情で窓の外のカラスを見て、
「何か欲しそうだな。お腹が減っているかもしれない。入れてやったらどうだ?」
と言いました。そこで、純二が、窓を開けてやると、ピョンピョンと跳ねながら、窓際の純二の机の上を歩き回りました。台所に戻って、
「これでもあげたらどうかしら?」
と朝食の残りのご飯をお皿に載せて持ってきました。父の和夫さんが机の上に置きますと、カラスは右目で見て、左目で見て、しばらく様子をうかがっています。安全と見たのでしょうか、ピョンピョンと飛んで近づき、それから数歩、歩いてやって来て食べ始めました。一心不乱に大きなクチバシでご飯を突っ突いて丸のみにして、直ぐに食べきってしまったのです。
食べ終わると、隣にある兄の一郎の机の上をピョンピョンと飛んだり歩いたりして隈なく回り、次には床に下りて部屋中回って、また机の上に戻りました。
「隣の部屋には入れちゃダメよ。洗濯物がたたんであるから」
と母の春子さんが叫びました。純二はあわてて隣の部屋との間にあるふすまを閉めました。