杜康
酒の製造には、醸造技術者である「杜氏」の存在がなくてはならないのは誰でもご存じでしょうけれど、「杜康」が杜氏の由来となったということをご存じの方は少ないのではないでしょうか。
前述の『遊遊漢字学』では、「杜康」とは古代中国で酒を発明した人物の名前であると、阿辻先生は教えてくれています。酒の歴史は非常に古く、すでに商(殷)の時代(紀元前十七世紀~紀元前十一世紀)の遺跡から、酒壺や酒杯などが発見されているのだとか。
そもそも「酒」という字は、中央が膨れた壺から酒が滴っている様を表している象形文字だというのですから、酒飲みなら思わずおっとっとっ、と手(口?)を差し出してしまいそうなシーンですね。
さてそこで「杜康」を辞書で調べてみると、「エチルアルコールを含む致酔性飲料」と、本来「杜康」が内包するものとは真逆のまったく無機質なことばが並べられています。「杜康」は、「酒」そのものを意味することばでもあるということ、初めて知りました。
かの『三国志』の英雄・曹操も、酒を側から離すことができなかったようです。
何以解憂 何を以てか憂いを解かん
唯有杜康 ただ杜康あるのみ
という、曹操の「短歌行」の一節が紹介されていました。
……ふ~む、かの曹操をしても「杜康」に頼らざるを得なかったと。しからば、私なんぞが「杜康」の力に全面的に頼ろうとするのは、至極当たり前のことだと言えそうです。それにしても、「杜康」とは、なんとも響きのよいことばを教えていただいたものです。
「おい、ちょっと杜康と語り合おうと思うのだが、いいだろう?」
なんて、女房殿を煙に巻いてやろうっと。