サキ:逆算思考で理想自己を目指して人間的な生き方をするとが大切なのですね。この場合、どうしたら理想自己の明確化ができるのでしょうか。

コウキ:これに関して古代ギリシャ・ローマの時代から「メメントモリ(死を想え)」(注6)という有名な格言があり、また、ハイデガーも人間を「死への存在」と言っています。

このように「死と真正面から真剣に向き合えば」、非常に意義深い精神的な変化をもたらしてくれ、「自分が本当に何をやりたいのか」「どのような者になりたいのか」ということが初めて明確化・自覚化されます。すなわち、自己の死という人生最大の精神的なトラウマ(深い心的外傷)を生存本能によって「死ぬときは死ぬ。死ぬまで命はある!」と覚醒し乗り越え成長するという心的外傷後成長(PTG : pot traumatic growth)によって、人生の全体像の把握と本当の人生の儚さや貴重さが自覚できます。

そして、一段高い全体的で長期的視点に立った死生観が確立し、どう生きるべきかという内発的動機付けに基づく未来志向による夢や理想の自分像(注7)(理想自己)が明確に描けます。

サキ:なるほど……心的外傷後成長によって死生観が確立し、理想自己が明確化され、それに基づいて決定された夢に向かって密度の濃い時間の使い方(注8)ができ、自分自身で道を切り拓くという「生きていく私」という自発的・積極的で「人間的な生き方」ができるのですね。

コウキ:そのとおりです。


(注6)荻野弘之『奴隷の哲学者エピクテトス』ダイヤモンド社 2019、206 頁。

(注7) 自己イメージはセルフイメージ(self image:自己像・自己概念)とも呼ばれます。このセルフイメージを設計することがセルフイメージ・デザインです。この際に、㋐自分が亡くなった後、人々が自分に対してどう言い、イメージするかを考えることや、㋑この世での自分の役割、ライフワークや使命を考えることも、死生観を決める上で良い参考になります。

(注8)時間の使い方はモチベーションによって大きく変わるので、最も濃い時間の使い方となるような動機付けが大切です。

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