第一章 ギャッパーたち
(一)畑山耕作
そんなネタ合わせの途中で交番の電話が鳴った。畑山が受話器を取ると、電話口から不審者がいるとの通報があり、加藤を交番に残し、畑山は現場に向かった。加藤には、
「電話には出るな。もし誰かが道を聞きに来たら、適当に説明しておいてくれ」
と言い残した。
時間はもう夜十時を過ぎており、現場の路地は街灯も少なく薄暗い。季節は九月末。秋になり、夜は冷えるようになってきている。警察官は真夏でも、どんなに暑くてもTシャツというわけにはいかない。装備品の重さにも変わりがない。その点、今の季節は汗で苦しまなくてよいぶん、快適に動けるのがうれしい畑山であった。
ただ一般人の場合には、この時期になると、気の早い人間はコートを着ていたりする。そして、悪いことを考える人間もまたコートを着ていたりする。悪い企図を悟られたくないという心理がそうさせるのかもしれないが、畑山たち警察官にとっては逆に怪しいことを主張しているにように思えるのであった。
コートはこうして、悪い奴の悪い意思を隠すためだけでなく、実際にも凶器を隠すことができるものとして利用されることになる。コートの中に隠されると分からないし、むやみに見せろとも言えないので、コートや大きなバッグには注意が必要となる。
コートの中に凶器を隠すのではなく、逆に何も入れていない犯罪者もいる。裸の上にコートを着て女性の前でそのコートを広げて、その女性が驚く顔を見て快感を得るという犯罪者である。この場合には、何も隠していないことが犯罪となる。隠すべきモノが凶器となっているのである。
畑山が現場近くにまでくると、数十メートル先に人影が見えた。畑山に緊張が走る。応援を呼ぶかどうかは、本当に犯罪者かどうか、もう少し確かめた後でないとまずい。不用意に応援を呼べば始末書ものだ。そこでボケが通用する業界ではない。ボケると本当の呆けとして扱われかねない。
畑山は腰の警棒に手を添えながら、そっと近づいた。相手は、四、五十代と思われる中年の男性であり、コートを着て、ビジネスバッグを持っている。一見すれば普通の中年サラリーマンであるが、その挙動が不審であった。男はしきりに家の中をうかがっている様子がある。ひょっとすると泥棒に入ろうとしている家の様子を探っているのかもしれない。
コートの下には包丁といった凶器が隠されているかもしれない。右手に堤げたビジネスバッグもサラリーマンに見せるための小道具で、その中に鍵を壊すバールや懐中電灯等が入っているかもしれない。畑山は慎重に声を掛けた。
「もしもし、君は何をされている方かな」
つい、どこかで聞いた、物まね芸人のネタが口を突いて出た。人のネタもいろいろ見ているので、こんなところでつい出てしまうものだから仕方がない。その不審者は畑山に気がついて、少しあわてている様子である。やっぱり怪しい。それでも、凶暴そうな様子はないと見て、畑山は冷静に、
「盗みに入る家を探っているのかな」
と声を掛けた。これで逃げ出せば間違いなく空き巣ということになる。ところが男は、