「いえ、私この家の者なんですが、こんな時間になってしまって、かみさんに怒られるんじゃないかと思うとなかなか入ることができなくて」

大体が、どんな不審者でも、自分が不審者であると素直に自白する者などいない。必ずもっともらしい言いわけをするのである。そんな嘘を信じるほどお人よしではない。何せ、人を見たら泥棒と思えと教わってきた職業なのである。

「はいはい、では家の人に確認してもらいましょうか」

「いや、それをされると困る」

(ほらほら、やっぱり、泥棒さんね)

そう思い、その男性の腕を確保したまま、その家のインターホンを押した。中から「はい」と答えが返ってきた。

「お宅のご主人という方がいらっしゃるのですが、一度、確認していただけますか」

 ここで、中から、

「主人なら家におりますが」

と返ってくれば、もはや男が泥棒であることが確定することになる。畑山は男の腕を確保している手に力を込めた。しかし、中からは何の反応もなく、畑山がどうなっているのかといぶかり出したところで、玄関から中年の女性が現れた。その家の主婦と見られる中年の女性は、男を一瞥すると、畑山に、

「どうも主人がご面倒をお掛けしました」

と言い残し、鬼のような形相で、その男性の首を掴んで家の中に引っ張っていった。畑山は、あわてて、

「奥さん、現行犯逮捕ですね」

とボケてみたものの、全く無視された。

「いきなり、死刑にしないでくださいね」

ともう一度、駄目押しのボケを入れたのだが、またも無視された。ところが、その男が、怒る妻に向けて、

「お巡りさんがせっかくこう言ってくれてるんだし、わし、おしっこもしたいんで、せめて執行猶予にして」

と言い、畑山も思わず、

「うまいっ」

と言ってしまった。しかし、そんなギャグが通じることもなく、その妻は黙ってその男性を家の中に引き入れると、勢いよくドアを閉めた。 畑山は、やっぱり警察官の姿でのボケは難しいと思った。

それにしても、あの男性は、一体、何をしたというのであろう。しかし、あの奥さんの表情態度から、警察に捕まるよりも厳しい詮議が待っていることは容易に予想され、畑山は、かわいそうなことをしたと思った。そうは思いつつも、ここで畑山は、酔っ払いの夫と妻のコントを思いついた。

【前回の記事を読む】「かわいい鹿とちゃうんかい」「そりゃ、バン〇や」やっぱり2人揃うと漫才への熱がさめなくて…