サキ:よくわかりました。一般的な心身説にも長所と短所があるのですね。
コウキ:そのとおりです。第④は少しスピリチュアルな考え方であり、「魂・霊・気」(spirit)注3を真我と考える魂説です。その魂は純粋な意識として認識されます。この説では例えば、心身は魂が思考し具体的に活動するための非常に重要な道具として位置付けられるので、例えば、ハサミという道具と同様に、道具をいつもピカピカで良く切れる最高の状態(健康な状態)にしておくことが大切であると考えます。すなわち、心はエゴ(我見)から離れ、より本心良心的で慈愛深くなると同時に、身体は健康な状態にしておくという自己コントロールがより簡単に行え、心の平安が得やすいという長所があります。
第⑤は「真の自我は存在しない」(無我:selflessness)という無我説です。これは諸法無我注4という東洋思想的な考え方です。
この説では自我的な主張が少なく円満な性格となり、自我に基づく苦からの解放もなされ、幸せな人生を送りやすくなります。第⑥は「この世のすべてのものは神などがその姿を変えて現れたものであり、真我はこの大宇宙そのものである」という汎神論※5(大宇宙説)です。この説によれば他の人を大切にする慈愛深い自他一如的な視点から考え行動することができ、幸せな人生を送りやすくなります。
サキ:なるほど色々な考え方があるのですね。しかも、例えば、身体説では唯物論的に目に見える物を重視し、心身説では心身の両者を重視するのに対して、魂説では魂を重視するというように、どの説を採用するのかによって重視するものが大きく異なってくるのですね。
コウキ:そのとおりです。それゆえ、自分でよ~く考え、納得する説を採用することが大切です。
真我
①「本当の自己(真我)」を考えることは成功し幸せな人生を送る上で決定的に重要です。
②どの説を取っても全くの自由であるけれども、可能であれば、㋐自己を上手くコントロールでき、㋑慈愛に満ち社会貢献を促進するようなものを採用したいものです。
注3:魂説では自我と真我とを区別します。そして真我である魂は非物質的な一種のエネルギーであり、創り出すことも壊すこともできません。この説では私たちは肉体と霊体から成り立っていると考えられています。なお、魂などは目には見えず、それを証明することは難しいので、その存在を信じるか否かは各人の判断ですが、信じて生きた方がより良い生き方ができるのは事実です。真我に目覚めることは一般に悟りの1つとされます。この真我は自己に生命活動と意識活動を与え、生かしコントロールしています。
注4:「諸法無我」とはすべての存在は縁起の法によって生じるものであり、固定的な自我は存在しないという考え方です。東洋思想では無我すなわち「主宰」(常に同一で変化しない主体的な存在)はないと考えます。私たちは自己の損得・危険や不快など(の自我意識[自分の好むように変化を望む意識])に関係のない状況、例えば、物事に集中し対象と一体化し三昧の時、リラックスして音楽を聴いたり、本を読んだり、散歩やジョギングをしている時など日常的に無我の境地(無我意識:[一切の価値判断を加えず、あるがままの現状を受け入れている自由な意識状態])にいることも少なくありません。無我の長所として、㋐歴史的認識をしないこと、㋑他律的に感情的な反応をせず、自己の選択権を行使し自律的に自由に生きられること、㋒無常観や縁起観を持っている場合には変化を柔軟に受け入れられることなどがあります。また、東洋思想では「諸行無常」「刹那消滅」が説かれるが、この場合に物事の秩序が徐々に壊れていくエントロピーの法則、現状を維持しようとするホメオスタシス及び生物などの新たなものを生み出し進化向上する進化の法則が存在します。
注5:汎神論では各個人に神が宿っており、それゆえ自他は一如であり、その本性は創造性や愛そのものであると考えます。