④MONDO ベルサの父
「カイユ! さっさと起きないか!」
その怒鳴り声に驚いて体を起こすと、みんなが自分を見て笑っていた。どうやらいつの間にか眠ってしまい、たった今、担任の先生に叩き起こされたらしい。他の生徒達が笑っている中、中年の男性教師はカイユを廊下に立つよう、チョークを持った指を動かしながら指示した。
カイユは、誰も居ない廊下で一人立っていたが、何もする事もなかったので、さっき見た夢を思い返していた。
さっき見た夢は、朝見た夢と続いていて、夢の中でカイユは、またラムカと言う少女になっていた。しかし、見たばかりなのに曖昧で、全てを思い出せなかった。
カイユは、夢の内容を思い出そうと、窓から見える遠くの空を見ていると、雲が浮かんでいて、その雲の上で何かが出て消えたように見えた。
窓から見えた風景は、青空と海が広がり、数は少ないが水平線の少し上に、雲が浮かんでいた。その一つの雲から、雲よりすこし小さなエイが姿を現した。カイユは目をこすり見返したがもう、その姿はなかった。その後、エイは姿を見せる事はなかった。
カイユは、あれが何だったのか分からなく、誰かに話したかったが、周りには人が居なく、自分の見間違いだったのかも知れないと自分を落ち着かせ納得させた。
放課後になり、直ぐにカイユは、ベルサと公園へ向かった。近所の少年達に見付かる前に、学校を抜け出したかった。サッカーの試合で捕まる前に、ベルサに話したい事が沢山あった。よく見る夢の事、小説の事。何から話せばいいか分からなかった。
公園に着き、ベンチに座ると、早速ベルサが話し始める。
ベルサが話し始めた内容が小説の事ではなく、父親の事だったので、カイユは呆気にとられた。
ベルサの父トルーマンは、学者で半年前から行方不明になっていた。ベルサがこの町に来たのは、母親が居ないベルサを気遣いベルサの伯母、父親の姉が、家に呼び一緒に暮らす為だった。そしてもう一つの目的は、父親が伯母の家を出たのを最後に行方不明になっていたので、この町で何か手掛かりを探す為だった。
ベルサの話では、伯母の家に、父が行方不明になる前に、書き残したメモが在り、そのメモには、雲海のエガミの小説の表紙にあるマークと同じ物が描かれていた。何故小説の表紙と同じマークをトルーマンは描いたのか、ベルサは、そこに何かヒントがあると考えていた。カイユが見付けた本にも同じマークがあり、何かが始まって行く感じがしたと、ベルサは興奮を抑えきれずカイユに伝えた。
カイユは、雲海のエガミの小説とジルの本とベルサの父親が何か関係していて、とてつもなく大きな事が起こりそうで嫌な予感がした。
カイユは、思い出す限り授業中に見た夢をベルサに話した。彼女は、カイユの見た夢の内容が、『雲海のエガミ』の小説とあまりにも酷似していて驚き、カイユは何かが始まると言う思いが確信へと変わっていく。ベルサはカイユが見た夢の続きを持って来ていた小説から探し出すとカイユに読み聞かせる。