鋲
訂正作業は工作の教科書に移った。二枚のミラーを組み合わせて潜望鏡を作る教材だった。その「潜望鏡」というタイトルを「千里眼」と訂正して授業は終わった。
終業のベルを合図に校内は一斉にざわめいた。一人の生徒が叫んだ。
「欲しい奴いるか。そいつら集まれ、この指触れ」
その生徒はランドセルからコーラとチューインガムを出して机の上に並べて誇らしげにあたりを見回した。生徒の輪ができた。
「どこからもらってきたんだ」
「進駐軍からもらったんか」最初に指に触った友達に栓を抜いたコーラのビンを手渡しながら、その生徒は得意満面で答えた。
「当たり前よ。コーラもこんなガムも日本で買えるわけないだろ。俺な、こう言ったんだ。ジープ、ジープ、ストップ。ハロー、ガム、コーラ」
「そうしたら?」
何人かが目を輝かせた。
「ジープの上からボール箱に入れて投げて寄越したわ」
さすがにコーラをもらった生徒も変な顔をした。
「それで、おまえ拾ったんか」
「当たり前よ。いやなら返せよ。すぐ返せよ」
「返すよ。そんなの返すよ」
言いながらも、その生徒は思いきり頰をふくらませて一息にビンの口から飲んだ。するとコーラは喉の奥で二倍にも膨れ上がり、むせながら無理にそれでもまた一口飲んでビンを突き出すように返した。
「ちぇ、文句言って飲んでやがる。他に欲しい奴いないか」