「初婚は二十二歳。早いでしょ。職場の同僚たちの中では一番に結婚したんだ」

みんなに驚かれた、と笑った。

「プロポーズは、あきさんから?」

「まあそうだね。俺から。でも一年で別れた。それから別の人と籍入れたけど、上手くいかなくてね。もういいかなと思って、しばらく一人でいたけど、三年前に上司の女性と結婚した。今も同じ職場で働いてるんよ」

「年上の人が好きなんですか?」

「どうかなあ。年齢はあんまり気にしないかな。というより、結婚ってなんか、タイプの相手を選ぶみたいな話じゃないんだよ」

「でも、好きだからプロポーズしたんですよね」

なんて言うかなあ、と視線を外す。

「居心地のよさとか、諦めみたいなものかな」

「満たしてくれる、みたいな?」

「惜しい。ちょっと違う。なにか与えてくれる人なんてこの世にほとんどいないから」

そう言って彼は、うんと頷いた。

「この人は、他のやつらほど俺から奪おうとしない。だから選んだ。なんか、そんな感じ」

出てきた料理はすべて冷凍食品だったが、唐揚げだけはおいしかった。レモンを表面に染みるくらいにかけながら、二度も離婚をしたのに、こうして赤の他人と無益な時間をすごすのはどんな気持ちなのだろうと思う。

外に出るとアスファルトが濡れていた。ネオンが反射し、道をピンクに染めている。彼の蝙蝠(こうもり)(がさ)に入って歩きながら、酔いが抜けていくのを感じた。二度目はネットカフェで会った。慣れた様子で受付を進める彼を横で眺めていると、突然、部屋タイプはどうすると聞かれた。

「チェアとフルフラットあるけど」

カウンターには時間表と部屋写真の載ったメニューがあった。店員とあきさんの四つの目がこちらを向く。漫画を読むだけなのだと自分に言い聞かせながら、片方を指さした。フルフラット席ですね、と屈託なく確認する店員の声にやられてしまい、あとは目をあわせないようにドリンクバーのほうを見ていた。

元彼の部屋に通っていた時のことを思い出す。壁の薄い量産型の賃貸アパートで、同僚の荷物も置かれていた。部屋で会う日は僚友に事情を話し、外出してもらっていたらしい。彼もまた、私との関係を秘密にしたいと言っていた。

だがある日、駅までの道で急に肩を組まれた。そんなことは二人きりの時でもしないため違和感を覚えたが、しばらくして、数メートル先から同僚の中国人二人が私服でこちらにやって来ていることに気がついた。腕をほどこうとしたが間にあわず、結局、すれ違いざまにはいたたまれない空気になったのだった。私と同僚たちはともかく、なぜ彼まで驚いた顔をしていたのだろう。

【前回の記事を読む】【小説】「自分の部屋が欲しい」中国人の彼氏。保証人になろうとするが…