夕刻、飛行機はデリーに着いた。9時間余りの飛行であった。時差は日本より3時間30分遅れなので、日本では夜の9時頃であろう。入国手続きが終わって中田達は一先ず待合室に腰を下ろした。
ここは日本ではないということをまず実感したのは、テロリストに資することを防ぐために、空港は写真撮影が禁止されている、ということであった。また、日本の雰囲気とは明らかに違う。すべてが頑丈、重厚という感じを受ける。繊細ではない。中田達は専用のバスでホテルに着いて、それぞれのスーツケースを受け取り、各人の部屋に入った。この年の旅は中田は一人部屋であった。
夕食はバイキングであった。水道水は飲まないこと、ボトル入りのミネラルウォーターを飲むこと、生野菜、サラダ、カットフルーツ、アイスクリーム、ヨーグルトは控えること等は日本で事前に説明を受けていたが、バイキングは物珍らしいものが所狭しと並び、ケーキ等の菓子類もふんだんにあった。中田は食欲に抗しきれなかった。
中田はまだこの時、外国での食事の鉄則を身につけていなかった。ベテランは外国では腹6分目を守るという。旅の疲れや、日本では口にすることがない強い香辛料のためだったのだろう。
後日、下痢が続き、ツアーの一部を諦めなければならなかった原因は初日にあったのである。インドの人口は2022年、14億1200万人、世界最大の民主主義国家である。人口は2023年には中国を超えて世界最多になるとの見通しを、国連は明らかにした(2022年7月)。
又、インドは、広さ、人口、文明の歴史においてもヨーロッパに匹敵するといわれている。生活様式がいろいろで、古いもの新しいもの高いもの低いものが渾然としており、多様性を活かす文明であるという。
また、インドは、地球国家の実験を、意識している、していないにかかわらず、行っているのではないか、気が付いたら現生人類のトップを走っていた、ということにもなりかねない、ともいわれている。異民族を同化抹殺し、「たった一つの声」ですべてを決める全体主義とは対蹠的である。