第二章

中田(61歳)は、旅行会社の仏教四大聖地巡りツアーに参加出来たことを幸運だと思っている。四大聖地とはルンビニー、ブッダガヤー、サールナート、クシナーラーである。ツアーの参加者は女性5名、男性は中田を含めて3名であった。添乗員は30代の女性でインドへツアー客をつれていくのは初めてとのことであった。

男性で中田は一番若いかもしれない。女性は20代と思われる人が2名、50代か60代と思われる人が3名で、そのうちの1人と20代の1人は、母と娘である。

平成13年3月、中田達はJAL471便で成田からインドのデリーに向かった。窮屈な飛行機の中で時間が過ぎて、ふと、窓の外を見た中田は、ああ、インドは間近だと感じた。白い帯が横にどこまでも続いている。世界の最高峰8000m級のヒマラヤ山脈である。同山脈はインド、ブータン、ネパールに連なり、東西2400㎞にも及ぶという。輝いて白く見えるものは雪だ。

ヒマラヤ山脈は、もともと南にあったインドが北上して3000万年前にアジア大陸にぶつかった時にできた皺だそうで、インドは今でも北上を続けており、無理やりアジア大陸の下に分け入ろうとしている、という。地球は一番外側に地殻があり、その内側がマントルで、これがいわゆるマントル対流という熱対流をなしているという。

大陸や海底からなる地殻全体がマントルの上に浮いている、という。諸大陸はジュラ紀(今から約1億8000万年前―3500万年前までの間)まで一つになっていたが、次第に分かれて現在のようになった、という。この大陸移動の鍵を握るのがマントル対流であるそうで、2億年後、現在の大陸もまた一つになる、という。

機の高度は9000m、エベレストの頂上よりも高いところを、この金属の物体は時速700㎞程でデリーに向かって飛行を続けている。金属の物体が何故意志を持っているかのように飛行を続けることができるのか。縁起説でいくと次のようになろう。この物体は飛行を続ける原因と条件が揃っているから飛行を続けているのであり、その原因と条件が変わって、降下する原因と条件になれば降下を開始する。