その日以降、私は日が完全に沈んで空の赤みが冷めるまで、その男の子と一緒に過ごすようになった。遊びながら互いに話をした。生活環境や、子どもながらの小さな秘密を分け合った。小学校に上がってからも、通学路に翼君の家があったので通学も一緒だった。
学校でも同じクラスだったので、自然に一緒にいる時間が増えた。
あの事件の前までは。
小学校に上がってすぐ、翼君のお父さんが事故で亡くなった。その葬式で翼君のお母さんに、お婆さんが怒鳴りつけていた。どうして血の繋がらない子を育てるのと。子連れなんてやめておけばよかったのに、お荷物だけ抱えてどうするのと。お婆さんの声は廊下までキンキン響いて、私は耳をふさごうとした。
「いい加減にしてよ!」
両手が耳を覆う前に滑り込んできた怒号に動けなくなった。
「そもそもお母さんがちゃんと産んでくれなかったからこうなったんじゃない! こんな中途半端な私をあの人は女として受け入れてくれたの。夢にまで見た子どもも一緒に。血縁はなくとも母になれたのよ。それを悪く言わないで」
お母さんの声を最後に、周辺は水を打ったように静かになった。薄暗い廊下の向こう側には翼君がいて、閉めた襖の隙間から漏れてくる光の中で立ち尽くしていた。私の視線に気が付いて、うるんだ瞳を無理に歪ませて笑いかけてくれた。
その一件で翼君のお母さんは怒鳴っている怖い人だと思ってしまった。今振り返ると、それは勘違いだと分かるのに。そんなお母さんは、あの事件で亡くなってしまった。