「そう言うあんたも帰らんの?」

「うん。もう少しここにおろうかなと思って」

「いーけんのじゃ、いーけんのじゃあ、せーんせいにいっちゃろ」

私が(はや)し立てると男の子は唇を尖らせた。そっぽを向いてぼそっと何か言っている。

「それはそっちもやろ」

夕風に紛れて消えそうだった男の子の声をなんとか拾って、そのむくれた頬をつついた。同じくらいの年齢なのに、子ども扱いされたのが嫌だったのか男の子はブランコまで逃げていく。私は面白くなってその後ろ姿を追いかけていく。

「ねえ、なんで帰らんの」

「家がつまらんけ。もういいやん、ほっとき」

男の子はいじけたようにブランコを漕いだ。家がつまらないのは同じだった。男の子の横のブランコに座って、大きく揺れる隣を目で追いかけた。ブランコは冷たかったが、私の体温と馴染んで気にならないほどになった。

お母さんは私を幼稚園まで迎えに来た後、家で六時くらいまで仕事をしている。だから皆とさようならをする五時から仕事が終わる六時までの間がとてつもなく寂しかったのだ。特に子どもの一時間は長く感じる。途方もない時間を独りで堪えられるわけがなかった。

お母さんは公園に誰もいなくなったら帰るように私に言いつけていた。また、暗くなる前に帰るようにとも言っていた。いつも私は最後の一人が帰るまで公園に粘っていた。他の子は早く帰るから、私は十分も持たずに家に帰ることもしばしばあった。

「そうなん、うちもよ。お母さんが家で仕事やっちょるけ、もう少しここで遊んで、帰っても怒られんのよ」

隣のブランコの揺れが小さくなった。

「じゃあ遊ぼうや」

さっきまで頬を膨らませていたのに、ブランコを止めた男の子は目を輝かせていた。お互いに仲間だと認識した瞬間だった。

「名前なんて言うん?」

「うち? うちは宮園小春。あんたは」

「僕は翼」

「翼君ね。よろしくね」