この家のご主人様は、今入院中とのことでした。いつも家ではおひとりで介護を担っていらっしゃるという奥様から、いろいろと教えていただきました。
そちらのお宅の療養室にはギャッチアップ式のベッドが据えられており、すぐそばにはローリング式の台所用のワゴン車が置かれておりました。そこには吸痰器やその付属品が準備されていました。このワゴン車はすぐれ物だと感心させられました。一度に身の周りで使うものが全て収納出来るのです。これは在宅介護における生活の知恵なのだとつくづく思いました。
私達がお伺いした猫田様は、この時点で在宅療養十七年だと伺いました。こうした工夫は今までの生活の中から生まれてきたものであり、全てにおいて不器用な自分を考えると、今からスタートラインに立とうとしている自分自身をいささか、いや大いに心細く思いました。
しかし、猫田様の私たちに対する優しいお心遣いに、救われる思いがいたしました。猫田様は、小物一つの置き場所から、いろいろの器具の使い勝手の良し悪しに至るまで、丁寧にご説明くださり、とても助かりました。同病の介護の大先輩であり、ここまで家でおひとりで介護されてきた猫田夫人の心意気、信念のようなものが行動や言外から感じられました。まだ何も知らない、予測すらつかない呑気者の私ですら、この夫人の、表には出さないご苦労が忍ばれるような気がいたしました。
幸にしてこれから介護生活に入る私たちには、この猫田様という大先輩がいらっしゃるということがとても大きな励みとなりました。この猫田様宅への見学が、私たち家族にとっては、在宅介護の実質的な第一歩となりました。介護支援としておいでくださる訪問専門医師、訪問看護師などの医療関係者、ヘルパーさんたちの利便性も考え、事務所のこの一部屋を取り敢えず療養室にしようと決めました。
しかしこの部屋は床が鉄筋なので、かなり冷たく感じるのです。この療養室はマンションの二階なのですが構造上一階が車庫になっており空洞なので、下にも部屋のある場所とは違い、とても寒いというのです。そこで床に断熱材を入れて、上にフローリング材を張ることにしました。これでやっと療養室の完成となりました。