圭も千佳もこの国道を通る時はバイクに乗り、渋滞する車列の横をすり抜けるように、ここの海岸線を自由に走り回っている。
圭が帰った後、千佳は自分の小型原付バイクの前カゴに荷物を入れている。
ノロノロと進む渋滞の車列に、黄色いビートルがこちらに向かってゆっくりと走ってくるのが見える。何気なくその車の中を見るとサングラスをした女が運転をしている。その女はBBQをしている米兵達のところで見かけた女だ。目の前を通る車を運転する女の横顔をしっかりと見て、あの時、刺青男と一緒にいたサーファーの女に間違いないと確信する。
その女の乗った黄色いビートルは渋滞の車列の中、圭が帰っていった方向とは反対の葉山方面に向かい、ゆっくりと走り去っていく。女が運転する車が見えなくなったところで、千佳はバイクのエンジンをかけ、そこから逗子の小高い山の上にある自分の家に帰っていった。
次の日、圭はLAに向かう直行便の機内にいる。夕方五時に成田を飛び立った飛行機は十時間かけ、現地時間の午前十一時にLAに到着する。そこからはアメリカの国内線の飛行機に乗り換え、アリゾナ州ツーソンにはその日の夕方に到着する。その空港のターミナルは小さく、発着便も少ない。
圭のレンタカーは砂漠地帯に太陽が落ちる前、ホテルに着く。その日、圭はホテルのベッドに飛び込む前にメールをチェックする。千佳からは
『圭、おみやげを忘れないでね』
と、短いメールが届いている。他のメールにも目を通してベッドに飛び込み、長旅で疲れた体を横たえてすぐに深い眠りについていた。
翌日、朝六時に飛び起き、研究所までレンタカーを運転して向かい、入り口で守衛に自分のピクチャーバッジを見せ、ゲートを通っていく。研究所の入り口には読み取り機が設置されており、そこにバッジをかざすことで、読み取り機がバッジの中のチップの暗証番号を読みとり、中に入ることができる。