「あの渦巻きが、神話の海の入り口なんだ。入り口はさほど大きくはないが、海底まではとてつもなく深い」
渦を取り巻いて、ゆったりと半円状に、白くかがやく石の円柱が宙づりに、真っ直ぐ12本立っています。向かって左から、1月、2月、3月と誕生月の順じゅんに。1月と12月の柱が、渦の半円の両端で、神殿の列柱のようにきっちりと向き合って。すべての円柱には、長方形の、白銀の小さなプレートが、銀河の星くずのようにちりばめられていて、
「太古の昔から、昨日海のこの石の柱には、ブリ族のネームがプレートに刻まれていて、灯ったり点滅したり、はがれ落ちたりしてるんだ。からだからエネルギーが少なくなってくると、プレートが点滅しはじめて、やがて石の柱からひとりでに離れて沈んでいく。その空いた隙間に、たった今生まれたばかりのブリたちの新しいネームが刻まれる。昨日海ってね」
ものしずかなシンの目が、パッとかがやきました。
「知恵に目覚める海なンだよ。気がついていた? きみだって、もうすでに目覚めているンだよ。だって、きみはまだ、ほんとに幼いのに、さっきからぼくが話している3つの海のこと、ちゃんと理解できるンだもの。
今日海では、ただ楽しく泳いでいるだけだったけど、知恵に目覚めるとね、ここではしぜんに何でも分かるようになるンだ。海も、生き物たちもみな、いつも月といっしょに息をしている。おおむかし、ヒトもこの昨日海にやってきたことがあったらしいよ。
そしていちばん深い神話の海には、とても古い石の挽き臼が沈んでいるらしい。きみとこういう話をはじめたら、おもしろくて、きりがないンだよ。
そしてね、この昨日海では、ぼくらのカラダをおおっているこの無数のウロコで、何でも予知することができる。これから起ころうとしている近未来のことを」
シンは再び、エラブタをパタパタさせて、いっしょけんめいに呼吸をととのえ、真剣なまなざしで言いました。