その時とつぜん、おじさんが、

「ボク、よく聞け、いますぐここから()げるんだ! 仲間(なかま)といっしょに力をあわせて、ようやくピンチの網を食い千切ったぞ。さぁ、このすきまから逃げるんだ、(いそ)げ!」

「ボクひとりで? こわいよ」

「だいじょうぶ。こわいことなんかあるもんか、さぁ、今こそ勇気(ゆうき)をだすのだ。かぁさんも待っているぞ。お守りのベルトもあるじゃないか。かぁさんの海に着くまで、ここから見はっているから安心していけ、さァ!」

「イヤだ! いやだ! おじさんといっしょじゃなくちゃ、ボク、ぜったい、イヤだ!」

「ありがと、ぼうや、でもな、おじさんの(たび)は今ここで()わったのだよ。だから(のこ)った力をぜんぶふりしぼって、この網を食い千切ってやった! スカッとしたぜ! これは、ぼうやの仲間からの(おく)りものだから、しっかりと受けとっておくれ。

最期(さいご)の旅が、ボクといっしょで、おじさん、ほんと楽しかった、ありがとう! ゆっくり、ゆっくり大きくなって、またいつか、ひろい海でいっしょに泳ごうな。

とうさんといっしょに、回遊(かいゆう)の旅に出かける日が楽しみだな。とうさんと旅をして、ざぶん、ざぶんと大波をくぐり()けるたびに、たくましくなっていくんだよ。さ、行け!!」

「おじさん、いっしょににげてください!」

「ありがと、こらっ、なにぐずぐずしてるんだ、早く逃げろ!」

「ああッ、おじさ~ん! ううッ、かぁさ~ん!」

ざぶんざぶ~ん

とてつもなく大きな波が坊やを()き込んで、いっきに暗い(おき)へつれ()ってしまいました。