【前回の記事を読む】失業し、里帰りした男…「いつかしてみたい」と温めていた計画を実行
第一章
1 七月三十日挑戦前夜
「まあしょうがないか」と妻は受け入れてくれた。
私の妻は現在妊娠七カ月で、幼稚園に通う四歳の長男が夏休みに入ったところで、いっしょに妻の実家に里帰りする予定をそもそも立てていたのだ。その方が身重の体には至れり尽くせりで楽だというわけで。だから実家に私が里帰りすることはわりと容易だった。家族をほったらかして、ということにはならない。
更に計算高い妻は、どうすればよりお得感が出るか、折込済みで了承したに違いない。夫婦ともにそれぞれの実家に帰れば、その間の我が家の食事代も光熱費も掛からないで済む、というのだからお得以外の何物でもない。私の策略はうまくいき、妻の了解のもと、心置きなく里帰りすることができた。
こうして失業一家にふさわしく、しばらく他人の懐をアテにした暮らしを開始することになったのであるが、もちろん妻は、私のチャレンジがどうしても実家に戻らなければ実行できないから里帰りする、とは知る由もない。
夕食までまだ時間はたっぷりあるので、昼寝することにした。普通なら散歩するなりテレビを見るなりするところだが、今はぜひとも昼寝しておきたいのだ。なぜなら私は、明日の朝午前五時まで起きている予定なので、寝だめしておかなければならないのである。
部屋の外からは、母の立てる足音が時折かすかに聞こえてくるが、昼寝するからと言っておいたので邪魔しには来ないだろう。次第に冷房が効きはじめ、私の意識はすみやかに薄れていった……。