東京都湾岸に位置するドリームランドは、テーマパークとしてはかなりの老舗だ。美しい夜景で有名だが、海風が強く、設備自体はやや古い。広さは東京ドーム約二個分。テーマパークとしてはそこそこ小さめの規模である。
各遊具には錆が目立ち、老朽化は見ればすぐにわかってしまう。アトラクションやキャラクターショーのレベルもさほど高くはない。どこにでもあるメリーゴーランドやコーヒーカップ、そして大したことのないジェットコースター。それでも四季折々に咲く美しい花々と冬のイルミネーションという強みと、優秀なスタッフ達の支えにより、これまで運営は続いてきた。
遊園地のロゴは円の中に針があるデザインで知られている。時計に見立てると短針一つのみなので、ドリームランド側はこのロゴを時計と説明していない。いつ潰れてもおかしくない遊園地。その運営元は、大手不動産会社『帝国不動産』である。全国にいくつものビルを保有している大企業は経営に余裕があり、赤字続きのテーマパークを閉園にしなかった。
そして、満を持して登場したのが最新型であり日本最大級の展望型巨大観覧車『ドリームアイ』だった。仲山は、ポケットの中からチケットを取り出す。仲山秀夫・仲山凛、と二人分の名前が記載されているものだ。続いて仲山は、ベンチの隣に置いたぬいぐるみのお腹をさする。
「クマでよかっただろうか」
ついついそう口から出た。凛は小学三年生だ。九歳の女の子が好きそうなものなんて、一緒に暮らしていない仲山にはわからない。色々調べてはみたが、流行のものは外れるかもしれないと思い、無難にぬいぐるみにしたのだ。喜んでくれるかな、前よりずっと大きくなってるんだろうな。緊張と不安を振り払うように、仲山はジャケットの襟えりを揃えた。
その時、携帯の着信が鳴る。電話を取ると同時に仲山は腕時計に目をやった。
「はい、もしもし」
「仲山、私だけど」
冷たい声が聞こえてくる。
「電車が混んでるから五分遅れるわ、ごめんなさい」
五年前に別れた妻の惟子からの連絡だった。
「ああ、わかった。入り口の脇のベンチにいる。気を付けて来てくれ」
仲山がそう言うと、返事がないまま通話はプツリと切れた。あまりにも愛想のない声だ、と仲山は思う。冷め切った元夫婦というのは憎悪を通り越し無関心になると聞くが、そういうことだろうか? 業務連絡のような無駄のない会話だった。仲山は小さいため息を吐く。息は空気を白く染め、そして消えていく。雪は降っていないが、それでもかなり冷えるクリスマスイヴだった。