「矢吹様、お待たせしました」

幸太は窓口に向かいながら、ポケットのメモを取り出し手の中に握った。

「通帳と現金です。ありがとうございました。それから、キャッシュカードはできるだけ早く見つけておいてください」

「わかりました。あの、これを見ておいてください。今日はありがとう」

素早く手の中のメモを差し出した。そして通帳と現金を受け取り、足早にドアに向かった。

「ありがとな」

幸太が駐車場で待っているふたりに言うと、幸太を見て微笑んだ祐介がすっと右手を差し出した。腕組みをしてどっしりと構えていた剛史が、ゆっくりとその上に手を置くと、幸太もはにかんだ顔をして、剛史の手の上に自分の手を重ねた。そして祐介が「一、二、三」と号令すると、三人が駐車場に響き渡るような大声で「よっしゃー‼」と気勢を上げた。

一週間が経過した。彼女から連絡はない。剛史と祐介から毎日のように電話があるが、いい返事を返せない。十日が経ってさすがに諦めようと考え出した。そしてふたりに、

「たぶん、破り捨てたんじゃろ」

と、今までの協力に声を沈ませ礼を言った。

それからまた一週間が経過した。幸太が昼休憩に職場から出ようとした時、同僚から呼び止められた。

「矢吹君電話じゃ。そっちまわすよ」

幸太が近くの電話を取った。

「はい矢吹です」

「あの……佐々木です」

女性の声だった。幸太は一瞬わからなくて沈黙したが、あっと声を上げた。待ちに待って、諦めかけていた彼女からの電話だった。ほとんど忘れていた声だった。だが何故職場の電話に?

「何度も携帯の方に電話したのですが繋がらなくて」

「ええ? 何故?」

幸太が携帯の番号を確認すると数字がひとつ違っていた。幸太の書きミスだったのだが、名刺を挟んでいたので職場に電話してきたのだった。職場に電話するのはどうかと迷い、それで連絡が遅れたらしい。楽天的で行動力があるが、そういう抜けたところもある幸太なのだ。何はともあれ、それから彼女と付き合い始め、一年後に結婚したのだった。