このように生命活動には、生物だけでなくウイルスにも核酸が最も重要なので、生命は核酸から始まったと考えている研究者もいます。植物は沢山の種を作って子孫繁栄を願い、野生動物も子育てに命をかけて種を継続する機能は、生き物としての特性なのです。
だが、無生物といわれるウイルスにも、宿主細胞のなかでの旺盛な増殖力は、わが子孫を残そうとする営みであり無生物にはできない行為だと考えられるのです。
このようにウイルスには、生物と無生物の二面性があり、生物にはない独特の機能をもつので、これまでの生物の範疇外にあり、生物の新たな定義が求められているのです。現在でも学者の間でウイルスは生物なのか無生物なのかという疑問が出されており、細胞学者の中には、ウイルスを生命体とは認めないと主張する人がいます。
このようにウイルスは、無生物と生物の間を往き来するまったく不思議な存在なので、生物学辞典では、「ウイルスは、限りなく生物に近い物質」と記されており、生物ではなく物質の扱いになっているのです。
だが、細胞に侵入したウイルスが、自分の核酸だけで細胞の機能を巧みに利用して増殖することを知ると、生命活動に最も重要なのが核酸であることを示唆しており、生命論の鍵は核酸が握っていると考えられるのです。
これらの事実から、ウイルスの無生物的な結晶性と、ウイルス核酸の細胞内での機能や生物的な増殖能力を、どのように結びつけるかが大きな問題になり、ウイルスの新たな機能が判明するたびに、生命体の最小単位を細胞とした定義が改めて論じられており、生物と無生物を如何に見分けられるかという問題が出されています。
結局、ウイルスは、生命の本質をうかがう不思議な有機体で、生命の神秘の一面を覗かせるものとして「生命とは何か」を問いかけている存在なのです。したがって、ウイルスの発見以来、現在でもウイルスを含めた[生物の定義]を明確にすることが困難になっています。