第五章 不確かな愛
沙優は急に泣き出した。俺はどうしていいか分からず、本能のままに沙優を引き寄せ抱きしめた。
「沙優」
なんて可愛いんだ、俺がいないと生きていけないなんて……俺は思わずこう言っていた。
「沙優、結婚しよう」
沙優は驚いた表情で俺を見つめた。
「南條さん、今なんて」
「結婚しようと言ったんだ、俺を愛することは出来ないか」
「駄目です、彼女さんがかわいそうです。南條さんは優しいから、私の涙を見て、同情したんですよ」
俺は同情じゃない、お前を愛していると言いたかった、しかし、沙優の気持ちが不確かなため自分の気持ちを口にする勇気はなかった。
沙優は俺に近づいてきたかと思うと離れていく。全く沙優の気持ちが読めない。沙優に聞いてみた、俺との結婚の意思があるかどうか……
「沙優、俺が彼女に振られたら、結婚してくれるか」
沙優はしばらく考えて言葉を発した。
「南條さんがフリーなら喜んで、でもあり得ないですよね、南條さんが振られるなんて。それに南條さんが私を本気で好きになるはずがないですから」
沙優は俺の気持ちを全く本気にしない。彼女がいる立場で、無理があるということか。近いうちに彼女との関係をはっきりさせなければと思った。
会社として婚約報告会見を開くことになった。
「沙優、出かけるぞ」
「南條さん、彼女さんにはちゃんとカモフラージュと話してありますか」
「心配いらない、大丈夫だ」
そして会場へ向かった。沙優はすごく緊張している様子で、落ち着きがなかった。
「あの、南條さん、私で大丈夫でしょうか」
「大丈夫だ、それからそろそろその呼び方、変えようか」
「えっ」
「貢でいいよ」
沙優はびっくりした表情で俺を見た。
「無理です、婚約者の振りなのに名前で呼ぶなんて」
「じゃあ、本当の婚約者になれ」
沙優は目をパチクリして驚いていた。
「こんな時に冗談はやめてください」
「冗談じゃない、俺は本気だ」
沙優に断られるかもしれないのに、俺は無謀な賭けに出た。そして沙優の腕を引き寄せ、沙優にキスをした。
「今日から沙優は俺の本当の婚約者だ、いいな」
沙優は黙ったまま、答えなかった。