間も無くして会見が行われた。この会見はテレビ中継された。記者の質問の中に「お互いを何て呼びあっていますか」との質問があった。俺は「沙優と呼んでいる」と答えた。記者は沙優にも質問した。
「沙優さんは南條氏をなんと呼んでいますか」
沙優はしばらく考えてから「貢さんと呼んでいます」と答えた。
滞りなく会見は終わった。
「沙優、お疲れ様、最高だったぞ」
「なんか、全然覚えていません」
「今日は飯食って帰ろうか」
南條さんは何を考えているかわからなかった。本当の婚約者ってどういうことなんだろう。貢でいいよってどういうことだろう。
「どうかしたのか、沙優」
私は南條さんに聞いてみた。
「本当の婚約者ってどういうことですか」
「そのままの意味だけど」
「だって私はカモフラージュなんですよね」
「だから、カモフラージュから格上げってとこかな」
もう、益々分からなくなった。
「彼女さんと上手くいってますか」
南條さんはちょっと顔を歪めて「うん」とだけ答えた。喧嘩でもしたのかな。そうか、喧嘩したから彼女さんにヤキモチ妬かせようとしてるってことなの。
「南條さん、喧嘩した時はちゃんと謝らないと駄目ですよ」
「喧嘩って、俺は誰とも喧嘩はしてないよ」
「そうですか」
「それより、早く入籍しようか」
私は驚いた表情を見せた。
「なに、そんなに驚いている」
「だって、入籍するって、南條さんの奥さんになるってことですよね」
南條さんは声高らかに笑った。
「沙優はおもしろいこと言うんだな」
「南條さん、冷静になってください、いくら彼女さんと喧嘩したからって、私と入籍するなんて」
「えっ、彼女とは喧嘩なんかしてないよ。それにそんな理由でプロポーズしないよ」
どういうことなの、私の頭の中はパニック寸前だった。
その夜、南條さんは寝室に入ってきた。えっ、いつも私が寝入ってから入ってくるのに、私は寝た振りをした。
「沙優、もう寝たのか」
私はじっと動かなかった。
「なんだ、寝ちゃったのか。じゃ、寝てる間に襲っちゃおうかな」
「駄目です」
私は咄嗟に反応してしまった。
「なんだ、起きてたのか」
「あ、あのう、寝てます」
「じゃあ、襲っちゃうよ」
「やっぱり、起きてます」
南條さんは声高らかに笑った。
「沙優はほんとにおもしろいな」
「別におもしろくなんかないです」
南條さんは私を引き寄せて抱きしめた。心臓の鼓動がバクバク音を立てた。身体が熱くなり、顔もカアーっと熱くなった。
「沙優、頬が熱いぞ、熱あるのか」
「大丈夫です、南條さんがギュッと抱きしめるからドキドキしちゃって」
「あっ、沙優、エッチな事考えただろう」
南條さんの顔を見上げていたずらっぽい笑顔に益々惹かれた。
「沙優」
南條さんの顔が近づいてきた。
「駄目です」
「何もしないよ、俺の腕の中で眠れ」
南條さんは私を引き寄せて抱きしめた。
「こうしてると安心する」
私はドキドキして眠れないよ〜。こうして私は南條さんに抱えられる体勢になり、朝まで一睡も出来なかった。