【前回の記事を読む】4年3組のみんなより…と書かれた手紙にあった「凄まじいメッセージ」
2章 普通になりたい
そして、入院してから1か月。
「もしかしたら今日、退院できるかもしれないよ」
朝に看護師さんが嬉しいニュースを届けてくれた。やっと、この日が来た。
「今から退院?」
「お昼食べたらかな。先生に聞いてみるね」
そわそわと待っているうちに午前中が過ぎて、お昼ご飯が終わった。
「まだ?」
「先生のおっけーが出たら帰れるよ」
今度は、だんだんと空が暗くなる。窓の外を見ると、ふわふわと雪が降ってきた。
「姫花ちゃんおまたせ。ごめんね、暗くなっちゃったから明日にする?」
「今から帰る!」
雪が積もり続ける真っ暗な道を、ドキドキしながら母の車で家に帰る。久しぶりの外の世界、1か月ぶりの家族のもとへ。
「ただいま!」
父と玲人は、驚いたような、嬉しそうな顔をしていた。「こんな雪の夜中に帰ってきたの?」と笑っている。1か月ぶりに会った愛犬のチョコは、人見知りを発動していた。私を忘れてしまったのかもしれない。
「今日が何の日か知ってる人ー?」
家に着いてすぐに、母がキッチンの棚から何かを出してきた。今日は2月の真ん中。
「あっバレンタインデー?」
「正解!」
母から貰ったチョコレートは、退院の特別なお祝いのような、日常に帰ってきた実感のような、幸せが上乗せされている気がした。
しばらくは、家と病院を往復する毎日が続く。退院した次の日も病院に行って、その2日後も行って、1週間後も病院。そのほかはどこにも行かずに、家で母と一緒に10歳過ごす。
つまりやっていることはほとんど入院の時と変わらないけれど、家にいるだけでとても安心感があった。何よりも、家族がいる。朝起きたら、一番に家の匂いがする。誰にもばれないように泣いていた病室の夜とは、それだけで大きな違いだ。
退院から1週間が過ぎて、少しずつ外を歩く練習を始める。通学路を歩けるようになるまで3日かかった。初めて学校までたどり着いた日、授業中の教室に少しだけ遊びに行った。
4年生の冬に受けたのは「弁形成術」という手術です。弁というのは、心臓にある心房と心室を分けている扉のようなものです。弁が閉まることで、心房と心室の間に壁ができて、血液が正しい方向に進めるようになります。私はこの弁がきちんと閉まっていなかったことで、血液の逆流が起きていました。そのため、弁がしっかり閉まるように「弁形成術」で形を整えました。心疾患を持っている子の中には、この弁を機械に入れ替えた「人工弁」というものをつけている子もいます。